――竹中さんは、美大出身でいらっしゃいますね。
竹中:多摩美のグラフィックデザイン科です。映像を専攻していたので、カメラのフレームを決めたりする作業が好きでした。絵コンテを描いたりね。中学高校はずっと美術部にいました。その頃は油絵をよく描いてましたね。
――どんな絵を描いていたのですか?
竹中:ゴッホの模写みたいな事もやっていました。かなり下手です(笑)。当時、美術部の部室はまだ木造の校舎で、歩くと床がミシッミシッって音を立てるんです。部室を包む油絵の具の匂いがとても好きでした。放課後、遠くから聞こえる野球部の練習の声を聞きながらキャンバスに向かうのがとても心地よい時間でした。そう言えば高校3年生の最後の年に、好きな女の子の肖像画を描きました。とても綺麗な女の子で、その人の顔をじっと見つめるというのを一度やってみたかったんです。小学生の頃から通信簿には【消極的。積極性がない。】と書かれてきたのによくそんなことが出来たなって思います。「絵を描かせてください」と美術部の部室に来てもらって。でも結局は緊張してしまって全然描けなかった。「ごめん、やっぱり描けないや」って、完成せずに終わりました(笑)。
――「おぢさん」を描いて個展を開かれていますが、人物画に興味があるのですか。
竹中:はい。絵画展でもやはり肖像画に一番目がいきますね。描かれた人物の人生を想像するのが楽しいです。ぼくは何故かおぢさんの顔ばかり描いてしまいます。人生をうまく歩いていけない、ちょっと寂しい、ちょっと変わった性格のおぢさんの小さな物語を作るんです。
――絵画も想像しながら観るのが好きとおっしゃってましたね。
竹中:肖像画は人と人が向き合って描かれるのでその人の内面的なものとか関係性を想像しながら見るのが楽しいですね。自画像もそうです。自分と向き合うというのはお芝居にも大きくつながります。
※後編「マティスの作品が色の塗り方で大炎上? 俳優・竹中直人さんの想像力を活かしたアート鑑賞法」へつづく