役者、映画監督だけでなく、アート作品も手掛ける竹中直人さん。想像でおじさんの顔を描き「おぢさんの小さな旅?」と題する個展まで開いた竹中さんに、類稀な想像力を活かして楽しむ竹中式アート鑑賞法を聞いてみた。国立新美術館で開催中の「マティス 自由なフォルム」展に合わせて発売された『マティス 自由なフォルム 完全ガイドブック』から、竹中直人さんのインタビュー前編を特別に公開します。
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――マティス作品にどのようなイメージをお持ちですか。
竹中:マティスの作品は絵を描くことがとても楽しいことなんだと教えてくれます。意外に模写がしやすいんです。昨年、東京都美術館で開催された「マティス展」に行ってきました。作品一つひとつがとてもチャーミングで久しぶりに心が躍りました。家に帰ってからもその感じが抜けずに模写をしたい衝動にかられました。サッサとスケッチブックに描いて……。「ほら、額をつければマティスに見える」なんて笑ってました。
――マティス作品を模写していかがでしたか?
竹中:マティスの作品は大胆であり繊細だから絵画的な感覚が覚醒するような気がします。色使いもそんなに複雑ではないし(もしかしたら複雑なのかな……)。一つの色で自由に形を作っていけるからとても楽しい。マティスの絵を見ると、どんなものも自由に描くことができるということを教えてくれます。マティスの持つ自由で、おちゃめで、繊細な感じをふわっとこころの中にインプットしておけば、自分で何か作品を作るときにすごく役に立つと思います。マティスの作品は「観る」ことによって「描く衝動」を与えてくれるんです。今回、国立新美術館で開催される「マティス 自由なフォルム」という展覧会も、観る人の絵心をとても良い感じにくすぐってくれるものになるんじゃないかな。
――「マティス 自由なフォルム」展では、晩年の切り紙絵が数多く来日します。
竹中:あの切り紙絵、本当に可愛いですよね! ワクワクしちゃいます。きっと人柄もあの切り紙絵のような人だったんだと思います。写真で見るとすごく厳しそうな顔をしていますが、会って話したらあの顔の印象とは全然違うんじゃないかな。そんなマティスの姿が彼の作品から伝わってきます。マティスが笑うとどんな音色の笑い声だったのかな……そんな想像をしながら作品を観るのも楽しいですね。