自立のうえに成り立つ「自分はこう生きたい」

 実はこれは、単純な行動のように思えますが、実際にはなかなか難しいことです。何かを行動するということだけではなく、考え方・心の持ちようを変えることだからです。「充実した老後を過ごすには、○○しましょう」「○○の実践がおすすめです」などと言われてやるほうが、ずっと簡単です。

 まず、できること/できないことを、自分ではなかなか見極められません。見極めたとしても、できることをしようとしない人、あるいはできないことを無理してやろうとする人・逆に自分の可能性を無視する人は多いのです。

 さらに、できないことについて援助を求めるのも、けっこうハードルが高いです。あなたのプライドや、人に頼むことの面倒くささ・遠慮が邪魔するのでしょうか。

 長生き生活を充実させるには、この「真の自立」が不可欠です。

 これができてようやく、次に「自分はこうしたい、こう生きたい」を考えます。子どもたちや親族に対する忖度(そんたく)は無用。主体はあくまでも自分自身です。

人は、生きてきたようにしか死ねないもの

「人は生きてきたようにしか死ねない」。介護の現場で働いていると、つくづく感じます。

 とくに人とのかかわり方において、それは顕著です。それまで人とどのようなつきあい方・かかわり方をしてきたか。簡単にいえば、人づきあいをいとわずしてきた人は、人に囲まれた老後・最期を迎えるだろう、人づきあいを避けてきた人は、ひっそりと最期を迎えるだろうということです。

 繰り返しますが、真の自立では、できないことを人に援助してもらう、そして援助してもらったら、こだわりなく、素直に感謝することが必要です。納得できる充実した老後を過ごしたいなら、60歳過ぎまでにそんな自分にどこまで近づけるか、自分と人とのかかわり方を、気づいたいまから見直すことも大事なことになるでしょう。

「年を取るのも悪くない」と思ってもらえるように

 あなたは親の介護を通じて、あるいは老いていく親を見守ることで、多くのものを学びました。この経験は、親が最後にあなたに身をもって残してくれた、大きなギフトといっていいでしょう。それを無駄にすることなく真の自立を手に入れ、「あなた自身の充実した老後」を迎えてほしいと思います。そのことが最後の親孝行になるのではないでしょうか。

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子どもの世代が「年を取るのも悪くない」と思えるように