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奈良女子大学の工学部と私の経験の大きな共通点は、「ハードルが高いものは未知なもの」であり、「人の役に立つ」ことが労働や学習のモチベーションになっている人は少なくないということだ。

女性にとって、もともと男性的なイメージが強いものに興味を持ち、学ぼうとするのはハードルが高い。それを打破するのに本当に必要なのは、キラキラとして色鮮やかな「女性らしい」イメージをPRすることではないと思う(もちろんこれらも必要な場面はあるだろう)。なにを学びどんなことに応用できるのか、それはいまなにに役立てられているのかという具体的な事例の提示と、手厚いサポート体制に尽きるのではないだろうか。

ニュースではモチベーションが「人の役に立つ」であることが女性の特徴としてあげられており私も合致する。しかしこれ自体は男女で分かれるというよりも、人によって目的が「技術を追求する」と「人の役に立つ」に分かれ、偏りがちなのではないだろうか。実際、現場でもとにかく目の前の技術に夢中な人が多く、そのような人はとても高い技術力を持っている。
 

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しかし、「技術を追求する」人はその技術の先にいる人を見失ったり、それ以外が見えないこともある。実際にツールを作ったはいいが使いどころがなかったり、興味のないものに対しては放置したり。だから私は、そこでこぼれてしまったものたちを拾うことで、技術の先の人や目の前のものに集中したい仲間の役に立ちたい。そう思って日々働いている。これが、なかなか楽しいのだ。

女子大学の工学部も同じだと思う。エンジニアはもともと、誰かの役に立つものをつくる技術職だ。技術そのものだけを追求していては、本当に良いものは作れない。でももちろん、技術力は必要不可欠。だから、それを丁寧にバランスよく教える場があるのなら、女子に不人気とされる分野にも人が集まり、「人の役に立つ」ことを第一とした視点を持つ人が現場にもっと増えるのではないだろうか。

最後に。

「好きなことを仕事にするのと、できることを仕事にするの、どっちが正解なの?」と悩んでいた大学生の私に言ってあげたい。

どっちも正解だよ、自分で選んだ道なら。でもね。
できることを仕事にして、それを好きになれたら最高だし、最強なんだよ。

そこには男性も女性もなく、「楽しく働いて人の役に立つ」ことのできる世界が広がっているから。
 

「かがみよかがみ」での掲載ページはこちら(https://mirror.asahi.com/article/15184731)。

「AERA dot.」鎌田倫子編集長から

私はこのエッセイを読んだとき、大きく頷いてしまった。

AERA dot.では理系大学、大学の理系学部に進む女性を後押しするような記事や連載を実は、数多く配信しています。

例えば、こんな記事。

「増える「工学部の女子枠」は男子学生に対する逆差別なのか?」(https://dot.asahi.com/articles/-/13001

また、女性科学ジャーナリストが一線で活躍する理系の女性研究者にインタビューした「科学に魅せられて~女性研究者に聞く仕事と人生」も、連載として配信していました。(https://dot.asahi.com/list/series/takahashi_m_series1

一方で、果たして読者はどんなふうに受け止めているんだろうかと、配信した記事の「先」を常々知りたいと思っていました。

“女子に不人気とされる分野にも人が集まり、「人の役に立つ」ことを第一とした視点を持つ人が現場にもっと増えるのではないだろうか。”

「秋」さんがそのようにニュースを捉えていたことをうれしく思いました。

ニュースは他人ごとではなく、自分の職業観とつながっている。社会の変化を伝えるニュース記事を、手触りのあるものにしたエッセイでした。
 

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