ニューヨーク・タイムズが今回OpenAI社との交渉を打ち切って提訴したのも同じ文脈だろう。ここでの判決がその後の規範となって、適用されていくことを、タイムズは期待している。
日本の状況はどうだろうか?
日本では今のところ読売新聞だけが生成AIについてはきわめて鋭い問題意識でとりくんでいる。山口は、新春の業界紙のインタビューで、記者に取材活動でAIは使わせないとし、その理由をこう語っている。
〈生成AIを安易に使うと直接取材、対面取材の力が十分につかない〉
読売新聞は、2月1日に読売新聞オンラインの会員利用規約を改定、新たに「(テキストを)生成AI等に学習させる行為を禁止」という条項を付け加えた。
日本経済新聞社長の長谷部剛は、山口と方向性は反対で「生成AIの活用を積極的に進める」と昨年8月の経営説明会で語っている。
いずれにしても読売と日経という会社の性格が生成AIの利用という点でもくっきりでているように思う。
そして他社はというと、積極的な発言はあまり聞かない。
この問題はジャーナリズムの今後を考える意味で、分け目となるイシューだ。自分たちの頭で考えて取り組むようにしなければ、プラットフォーマーに飲み込まれたように、生成AIにも飲み込まれてしまう。
こうしたネットに関する議論では、前々回の「NHK NEWS WEB」でもそうだが、「利用者が便利ならばいいではないか」という意見が大勢を占めるようになる。
しかし、それに対する反論は、結局、私たちが損をすることになるということだ。
たとえば、くだんのニューヨーク・タイムズのピューリッツアー賞受賞記事は、ニューヨークのタクシー免許に関するものだったが、報道の結果、移民労働者への不当な収奪はやみ、法改正のきっかけとなったのだ。
そうした取材活動の基盤が崩れてしまう。
※AERA 2024年3月11日号