OpenAI社の生成AI「ChatGPT」は「大規模言語モデル」を採用したことで大きなブレークスルーを果たしたとされている。
この「大規模言語モデル」というのは、ざっくり言って、AIが大量の文献を読み込むことで、賢くなっていくというものだ。
ダボス会議で、OpenAI社のCEO、サム・アルトマンは、ニューヨーク・タイムズの訴訟にふれ「トレーニングとしてテキストを読ませるのと、表示は別に考える必要がある」と大規模言語モデルにテキストを読ませること自体に問題はない、としている。
OpenAIの反論にもあるように、AIにテキストを読ませること自体は、米国でも日本でも現行の著作権法では著作権の侵害にはあたらないのだ。
ジャーナリズムの将来の興廃をわける問題
このニューヨーク・タイムズの訴状を読みながら思いだしていたのは、2002年末に読売新聞社が、神戸の小さなスタートアップ「デジタルアライアンス社」に起こした「ライントピックス訴訟」と呼ばれる訴訟だった。
これは、ヤフーのニューストピックスにリンクをはって、見出しを手入力した「ライントピックス」というサービスを、読売新聞社が訴えたもので、現在、読売新聞グループ本社社長の山口寿一が、法務部長時代に指揮したものだ。
このとき、読売は見出しにも著作権があると争ったが、その訴状では、ニューヨーク・タイムズの今回の訴状と同様に、新聞記事のひとつひとつにいかに手間がかかっているかを強調し、ライントピックスはそれにただのりしているサービスなのだという論理を展開した。
結局訴訟は、見出しについては著作権は認められなかったが、競争上の不法行為を次のように認定した。
〈ニュース報道における情報は、控訴人ら報道機関による多大の労力、費用をかけた取材(略)などの一連の日々の活動があるからこそ、インターネット上の有用な情報となり得る〉
このデジタルアライアンス社は数人の小さな会社で、しかも読売新聞は事前交渉をせずにいきなり提訴した。その理由を山口に単行本の取材の時に聞いたが、「この手のただのりビジネス」は、個別に解決をはかっても意味はなく、「すみやかに司法判断を仰いで新しい法規範を明らかにする必要があると考えたから」と答えている。