※写真はイメージです。本文とは関係ありません(Stock / Getty Images Plus)

 これもたくさんあります。年上の俳優さんに、反発されることを分かっていながら演出の厳しい指示を出したり、スタッフに反対されることを予想しながら要望を語ったりしました。

 もちろん、とうとう言えなかったこともあります。でも、悔やんでもしょうがないので、寝て忘れます。

 5.芝居の世界とはどういう空気感なのか。

 どうでしょうね。当事者ですから、どんな感じなのか、外の世界の人にうまく伝えるのは難しいかもしれません。「好きなことを仕事にしている」と言われますが、好きなことを好きなようにやったら、仕事じゃなくて趣味ですね。仕事にするということは、好きじゃないことも含めて、観客が満足できるものを作るということですから、楽しいことと同時に大変なことも多くあります。

 6.虚しさを感じた事はなにか。

 これもたくさんありますね。

 例えば、自分としてはかなりの手応えがあったと思った作品が、観客にはそう伝わらなかった時とかですね。演劇だけではなくて、「この本は売れると思う」と予想したのに、全然、そんなことがなかった、なんて時は、虚しいですね(笑)。

 いい俳優に育つはずだと思って、何年も何作品も演出を続けていたのに、突然、「俳優をやめます」なんて言われた時も虚しいですね。その俳優と過ごした時間や注いだエネルギーを思うと、力が抜けます。

 社会に目を向けると、あきらかに不正なことをしているのに、なんの追及も受けない人を見ると、虚しさに襲われそうになりますが、これは虚しさではなく、怒りだあ!と自分を正します。

 どうですか、歩くだけさん。なにか歩くだけさんの「人生のアイディア」になりそうなものはありましたか?

 人生の先が見えないことが不安だと感じるのではなく、分からないからこそワクワクすると思って僕は生きてきました。十代からずっと、「迷った時は、先が見えない方」を選んできたという自覚があります。

 歩くだけさんの「毎日辛いけど、それと同時に自分の心の痛みを愛しています」という文章は素晴らしいと思いますよ。

 歩くだけさんが「この世に生まれた偶然」を思いっきり素敵に生きられることを心から願います。

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