Aさんがこう話す。
「アメリカの会社との交渉では、妥協したら負けです。これは言い過ぎかな、といった考えは禁物です。そうしないと、相手側のいいように権利を持っていかれるだけです。後で文句は言えませんから、妥協点を見つけるまでとことんやります」
これは言い過ぎかな、とか、相手を不快にさせたら悪いかな、といった遠慮は必要ないのがアメリカ相手の交渉事だという。以前、Aさんがアメリカの制作側と交渉した際、相手側から「遠慮しないですべて言ってください」と強く言われたくらいだという。
そうすることで、後々のトラブルを回避するのだ。
「海猿」のようなトラブルは起きない
日本では過去に、大ヒットした映画「海猿」シリーズが、ライツをめぐりトラブルになったことで知られている。原作者で漫画家の佐藤秀峰氏の許可を得ずに、映画化を手掛けたフジテレビが関連書籍を出版したとして、佐藤氏はその後、同作の映像配信契約の更新はせず、ドラマの再放送やDVD化、さらなる映画化などの二次利用については許可しない措置を取った(2015年に和解)。
こうした例や、今回の芦原さんのように、急きょ原作者が脚本を書くという事態もアメリカでは起こりえないのだという。
それだけ徹底すると契約書の枚数も、
「日本は10枚以下、アメリカは数十枚というくらいの差があります」(Aさん)
契約書が完成するまでに、日本が1~2カ月程度なのに比べ、アメリカは半年~1年くらいかかるという。契約書に書かれたことがすべてのアメリカと違い、日本は、何か起きた場合はその都度協議し、決めるという大きな違いがある。
「毎度話すのは、話し合う余地を残して、柔軟に制作を進めていくためとの見方もありますが、テレビドラマの場合は、役者のアドリブの部分ですね。原作者に確認して、契約には事後承認というのを入れています」とAさんが打ち明ける。
話し合って詰めていくというのも日本的な感じだが、それがすべて悪いわけではないのだろう。