そして、トランプ現象が始まったときも、私はトランプ自身でも、共和党でもなく、「覚醒した民主党」が新たな原動力のようなものを生み出すのではないかという期待を持っていました。真の民主主義、自由民主主義など、私たちがかつて愛した古いアメリカ国家に非常によく似た、新しいアメリカ国家への新たな原動力を生み出すのでないかと……。

 しかし、それから20年経った今、私が『帝国以後』と同様の調査、つまり貿易赤字、アメリカの政治システムの内部機能、ワシントンの支配エリートのメンタリティについての調査を加えてみると、「もう過去の状態には戻らない」ことは明らかです。

 アメリカで観察されているようなこの歴史的大変革は、私が言うところの「元に戻せない」ものです。歴史が続く限り、後戻りはできません。

 私たちが何に対処しなければならないのか、正確にはわかりません。しかし、「以前のような民主主義に戻れるかもしれない」「戻せるかもしれない」という考えは、妄想です。

 つまり、私たちは、新しいことに備えなければなりません。戦争とは関係なく、私たちはもっと悪い事態に備える必要があるでしょう。

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エマニュエル・トッド

エマニュエル・トッド

エマニュエル・トッド(Emmanuel Todd) 歴史家、文化人類学者、人口学者。1951年フランス生まれ。家族制度や識字率、出生率に基づき現代政治や社会を分析し、ソ連崩壊、米国の金融危機、アラブの春、英国EU離脱などを予言。主な著書に『グローバリズム以後』(朝日新書)、『帝国以後』『経済幻想』(藤原書店)、『我々はどこから来て、今どこにいるのか?』『第三次世界大戦はもう始まっている』(文藝春秋)など。

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