春風亭一之輔・落語家

 落語家・春風亭一之輔さんが連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今回のお題は「花粉症」。

 花粉症の人は花粉症でない者に決まって「花粉症は急にきますよ……」と、したり顔で言う。そんなセリフをちょっと上から目線で言われ続けて何年になるだろうか。

 こねえじゃねえかよ。俺に花粉症はいつくるんだ?

 私はアレルギー性鼻炎(主にハウスダストで花粉はゼロ)はあるので花粉症の気持ちはなんとなくわかる。くしゃみ、鼻水、目の痒み……確かに辛いです。年齢とともに体質も変わってくるのだろうか? 小学校低学年の頃は花粉症だったんじゃないか? と思うくらい、いつも鼻水を垂らしていた。

 春先はとめどなく流れ出す鼻水と常に闘っていた。そりゃはなが垂れたらティッシュでかむくらいのことは心得ているが、ティッシュじゃ間に合わないくらい垂れてくる。そのうちにハンカチやハンドタオルでかむ。あまりいいもんじゃないのは自分でも分かっているが、垂れる鼻水には逆らえない。

 ティッシュがなくなり、ハンカチやハンドタオルも乾いた箇所がなくなり、遂には長袖の体操服の袖口で拭うことになる。袖口で間に合わなくなると襟首で鼻水を拭いていた気がする。丸首のフチを手でグイーンと引っ張って、鼻の下まで持ってきて拭う。襟首は鼻水が染みて当然汚れてしまう。それでも流れ出る鼻水を拭くにはそれしか方法がなかった。

 そんな子が身近にいたらかなり気の毒に思うし、自分の子がそんなことをしていたらと思うとやりきれないが、その頃の私は人目をまったく気にしていなかった。とめどなく出る鼻水は周りの目を気にするという感覚を鈍らせるのだろうか。

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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