先日、某テレビ番組のナレーション録りの仕事があった。二時間番組のドキュメンタリー。およそ五時間、スタジオに籠りっきりというハードな内容だ。

 一人かと思ってたら、某女優さんと掛け合いでの収録だった。名前を聞いたら「お!」というくらいの有名な方。三畳ほどの録音ブースに二人っきりだ。待ってくれよ。緊張するじゃないか。そしてこんな坊主のおじさん(二日酔い)と密室に閉じ込められるなんてホントその女優さんに申し訳ない。

 少しでも遅刻して嫌われるのが怖いので、集合時間の二十分前に着いてしまった。寄席演芸界隈の外の人と仕事するのは無駄にドキドキしてしまう。ましてや有名女優だ。粗相があったら頭から熱いコーヒーとかかけられるんじゃないか。

 「〇〇さん、お入りでーす」とスタッフさんの声。

 テレビや映画以外で初めてお目にかかる〇〇さんは手に箱ティッシュの「鼻セレブ」を抱えていた。白いうさぎのパッケージのやつだった。どこにでも肌身離さず持っていくのだろうか、箱がボコボコでこなれたかんじ。

 「ずびばぜん、がぶんじょうでじで」

 みたいな第一声。お会いする前は、私が勝手にその方を雲の上の存在だと思っていたのだが、なぜだろう……ちょっと近づいた気がする。目と鼻が赤い。気の毒に……。

 「ごで、バレンダインデーのヂョゴでず」

 花粉症なのに、その日がバレンタインデーだからってわざわざチョコレートをくださった!! さすがの気遣い。そして左手に鼻セレブ、右手にチョコレート。

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「それもアリですね!」