オーストリア国鉄夜行列車の先頭車両

 そこで、鉄道と街づくりをセットにした地域を考えることが重要になってくるという。キーワードに挙げるのが「コンパクト・プラス・ネットワーク」。国交省が進めている、鉄道ネットワークを加味したコンパクトな街づくりの取り組みだ。

 例えば、瀬戸内海を望む港町の広島県三原市は、JR三原駅前の遊休地に2020年、図書館やホテル、スーパーなどが入る複合施設を開業。中心部の衰退に、歯止めをかけている。

「このように駅周辺に商業、医療、福祉などの機能を整備し、鉄道に人を誘導するインセンティブ(動機)を設けることで鉄道の利用者を増やしていきます。近年増えている、自然災害による河川の氾濫や土砂崩れが起きそうな場所に住宅を建てることも避けられます」(大門准教授)

 そんな中、鉄道を含めた公共交通の役割が再評価され、復活しているのがヨーロッパだ。

 例えばオーストリアは21年に国内全ての鉄道、トラム、バスが1年間乗り放題の「気候チケット」を導入し利用者を増やしている。チケットの価格は1095ユーロ(約17.5万円)、1日当たりに換算すると3ユーロ(約480円)だ。そのために国は、まず3億ユーロ(約480億円)を用意した。

未来を起点に

 国内外の公共交通に詳しい関西大学の宇都宮浄人(きよひと)教授(交通経済学)は、「コロナ禍を経て、欧州は移動手段を車から鉄道を始めとした公共交通へとシフトし、国が新たな取り組みを行っている」と語る。

「根底にあるのが『持続可能な社会』です。持続可能と言えば、日本では『持続可能な交通』と、交通を維持することに焦点が当たっています。対してヨーロッパは、ウェルビーイング(心身の健康や幸福)を向上させ、将来世代がそこで暮らしていける持続可能な社会を支える手段として交通を捉えています」

 こうしたヨーロッパの交通政策の枠組みの基本となっているのが、「SUMP(サンプ)」と呼ばれる交通計画だ。

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