職員との距離の取り方

 施設に入れても介護は続く。在宅介護よりは、時間的な負担は減るが、これまで味わったことのない心的負担が加わった。

 最初のうちは職員との距離の取り方(施設によって違う)がよくわからず、ためらわず相談やお願いをしてしまった。目が悪いので頻繁に話しかけてほしいとか、ラジオをつけてほしいとか。そういうレベルだ。しかし、ある時職員から「それ以上望むなら有料(老人ホーム)に行ってください」「在宅介護をした方がよいのではないでしょうか」と言われた。

 塀の中にいる父と母が「拉致」されているような不安を覚えることもあった。介護福祉士となり、介護の世界で働くようになった今は、そんなことは絶対にありえないとわかる。しかし当時は自分の態度によって、父と母へのケアが変わってしまうと本気で恐れていた。

 入所に合わせて衣類すべてに名前を記入するのもつらかった。その後、有料老人ホームに入居してから洗濯はすべて個々で行われるため記名は不要となり、自宅での暮らしに近づいた心持ちになった。些細なことだが、意外にもこれは大きかった。

 そして今。ようやく、母が実家に帰る日が近づいてきた。ずっと帰りたいと望んだ我が家。母は肺炎をきっかけに嚥下機能が著しく低下し、1年前に中心静脈栄養という人工栄養を開始し、現在は管からの栄養で命を繋いでいる。延命を決断した時、医者からは「年単位ではないと思う」と言われた。寝返りは打てない。目も見えない、ただ寝ているだけの母。週1回のたった15分の面会時、母は、枯れ木のような細い体をこちらに向けて、絞り出すように「帰りたい」「うちに帰りたい」「お寿司が食べたい」と言った。そうだよね。家に帰りたいよね。帰ろうね。そう言いながら母と別れた。胸がきゅっと痛んだ。

暮らしとモノ班 for promotion
大人のリカちゃん遊び「リカ活」が人気!ついにポージング自由自在なモデルも
次のページ