浜井浩一(はまい・こういち)/龍谷大学法学部教授。法務省に入省し刑務所などに勤務したほか、在イタリア国連犯罪司法研究所研究員も務めた。日本犯罪社会学会会長(写真:本人提供)

 法律も厳しくなった。昨年は性犯罪の規定を大幅に見直した改正刑法が施行された。強制性交罪は、意に反する性的行為を処罰する「不同意性交罪」に変わった。これまでは「暴行または脅迫を用いて」という要件があり、罪の成立には抵抗が著しく困難だったことが必要だと解釈されてきた。改正刑法では「被害者の意思」に重点が置かれ、激しい抵抗が認められなくても処罰できるように要件が明確化された。不同意性交罪と不同意わいせつ罪の公訴時効は5年延長され、18歳未満で受けた被害については、18歳までの年月を加え時効を遅らせる。性交同意年齢は、13歳から16歳に引き上げられた。浜井教授は言う。

「表に出る性犯罪は、最大15%という調査結果があります。つまり、性犯罪の被害者の85%は泣き寝入りしているのです。犯罪が表に出てくるようになれば、隠れた犯罪の数が減っていくと期待されます」

 価値観が変わって、犯罪として対処されるようになる。こうした変化は性犯罪だけではない。

「児童虐待にしてもDV、ストーカーにしても、だめなものはだめだという価値観に切り替わったのにともなって、事例が表に出てきています」

 児童虐待、またはその疑いがあるとして、警察が児童相談所に通告した児童数は23年に12.2万人と、前年比で6.1%増加して、過去最多となった。

 昨年衝撃を与えたのが、「先生」と呼ばれる学校や塾関係者による犯罪だ。大手進学塾の元男性講師が教え子の女児を盗撮したとして逮捕された。また、現職校長が、児童買春・児童ポルノ禁止法違反の疑いで逮捕された。まさか犯罪を起こすとはそもそも疑われない存在だ。浜井教授は言う。

「今後も価値観が変わったり、教師のようにいままで疑われもしなかったような加害者の存在が明らかになり、新たな犯罪が認識されてくる可能性はありますし、その結果、社会の監視の目が強まり犯罪実態が減少する一方で、表面上の統計が増加する可能性もあります。裏金問題だって、昔は官公庁でもよくありましたが、今は許されません」

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