ニュースで報じられると、どうして治安の印象が悪くなるのか。京師さんはこう考える。
「凶悪事件の被害者が身近にいるなど、事件が身近なわけではありませんが、SNSやニュースで映像を見ていると、自分事のように感じて胸が苦しくなるのです」
ただ、ここ数年、刑法犯の認知件数が増えたのは、治安の悪化が原因とは言い切れない。
「コロナ禍に緊急事態宣言で仕事も学校も旅行も行かず外出しなくなって、犯罪が減って底を打ったのだと考えます。コロナ禍の行動制限がなくなって、人々が外に出るようになって、犯罪も増えているのではないでしょうか」(同)
そんななかで、昨年飛びぬけて増えたのが不同意性交等だ。23年の認知件数は2711件と2年前のほぼ2倍になった。不同意わいせつも大幅に件数が増えた。
不同意性交等の増加、価値観の転換が背景に
どうして増えたのか。犯罪学に詳しい龍谷大学の浜井浩一教授が解説する。
「犯罪白書の犯罪被害実態調査によると、性犯罪自体は減少傾向にありました。いまになって、性犯罪自体が増えたわけではありません。価値観の転換があって、過去には犯罪だと世間が思っていなかった事案を表に出せるようになったのではないでしょうか。ちょうど今が過渡期だろうと思います」
例えば「デートに誘われて行ったからといって、望まない性行動を強いられたら犯罪だ」とメディアでも報じられ、社会の認識も変わる。価値観の変化によって、これまで「性犯罪」と認識されてこなかった犯罪が表に出るようになった。
警察の態勢にも変化があった。以前は警察に相談に行っても「家庭内のことだから」「恋人同士の問題だ」と取り合ってもらえなかった問題があった。「夫婦喧嘩」と言われていたものが「ドメスティック・バイオレンス(DV)」と認識されるようになった。
「いままでは民事不介入として片づけられていたものが、犯罪として取り扱われるようになりました」(浜井教授)