日本は「家族人質社会」、相互監視社会と排除の論理
結局、日本の治安はどうなっているのだろう。先の警察庁のアンケートでは「日本の治安はよい(安全で安心して暮らせる)と思うか」の質問に、「そう思う」「まあそう思う」と答えた人は、23年は合わせて64.7%。21年の75.8%から大きく減少したものの、6割強が日本の治安がいいと感じている。たしかに、長い目で見れば、刑法犯認知件数は減少傾向にある。
「厚生労働省の人口動態統計によると、人の死因として、他殺は一貫して減少しています」(浜井教授)
治安に定義はないが、少なくとも、殺人が横行するような治安の悪さはないということだ。
「犯罪そのものも減って、治安は段々よくなってきていると思います」(同)
では「治安がいい」とはどういうことなのだろう。浜井教授は言う。
「諸外国との比較調査を分析していくと、日本人が特別にモラルや規範意識が高いわけではありません。平均的です。それなのに、他の国の人よりも日本人は明らかに犯罪に手を染めないわけです。それは、『家族人質社会』だからだと私は考えています」
「家族や仲間に迷惑がかかる」という気持ちが、犯罪を抑止しているというのだ。美談として語られるのが、大災害があっても仲間を守るために職務を放棄しない姿だ。
「ここで仲間を見捨てたら、地元にいられない。こんな気持ちが働いているのだと思います。よく言えば、助け合いで成り立っています」
ただ、その仲間意識は悪い方向に働くことがある。
「仲間の輪から漏れた人は徹底的に排除されることもわかっています。加害者家族へのバッシングもそうです。この相互監視社会では、自分が悪いことをすると家族が同じように批判され、社会から排除される。だから踏みとどまっている。この意識が、日本の秩序を守っていると思います。しかし、それだと、仲間の輪から外れた孤立した人を止めるものがなく、凶悪犯罪を起こしてしまいます。なぜ防げないのか、という一辺倒ではなく、孤立する加害者の背景を一定程度理解して、再犯の防止を支援する必要もあると思っています」(同)
(編集部・井上有紀子)
※AERA 2024年2月26日号