その時の無惨の表情は穏やかで、語り口も優しかった。あの堕姫が頬を赤く染めていた。無惨の言葉は堕姫の気分を高揚させ、彼女の心をくすぐった。

<“堕姫” 私はお前に期待しているんだ お前は誰よりも美しい そして強い柱を7人葬った これからもっともっと強くなる 残酷になる 特別な鬼だ>(鬼舞辻無惨/9巻・第74話「堕姫」)

 なんと無惨は自ら手を伸ばし、堕姫の頬を両手でそっと包み込んだ。この後のシーンでも、無惨は自分の膝に堕姫の頭をもたれかけさせており、彼女を優しくなでていた。恋愛関係のようにも見えるが、疑似的な父娘の甘やかしのようにも見える。2人のこの様子は、単なる主従関係によるものだけではないだろう。

 こんな無惨の様子は極めて珍しい。無惨初登場時に、彼は人間の成人男性に擬態し、幼い娘を抱っこしていたことがあったが、それ以外では、攻撃する時をのぞいて、他者にはほとんど触れようとはしない。
 

無惨の「お気に入り」の条件とは?

 意外なのだが、あれほど尊大な無惨も、配下として十分な働きをしている鬼には、むやみに声を荒らげたりはしない。任務遂行に失敗した場合、無惨の正体を鬼殺隊側にもらした場合、そして無惨の機嫌をそこねた場合には、暴力行為に及ぶことがあるものの、気に入った相手には、それなりの扱いをしている。

 とくに下弦の伍・累(るい)に対しては、無惨の態度は甘かった。無惨は、累が重い病に苦しんでいる場にあらわれて、「可哀想に私が救ってあげよう」と言っており、その後、累が死亡した時も、無惨のいら立ちは相当のものだった。

 なぜ堕姫と累はこれほどに寵愛を受けたのか。彼らの共通点は、どこにあるのだろうか。 
 

鬼の配下への態度

 無惨は配下の鬼の中で、目をかけた者にはどんな態度をとっていたか振り返ってみよう。鼓を打つ鬼・響凱(きょうがい)は、「人間を喰えなくなりつつある」という決定的な欠点を抱えたが、「下弦の陸」のナンバリングを剥奪されただけで、無惨に殺されることはなかった。

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無惨が好む鬼の「タイプ」