堕姫に“お願い”をする無惨

 遊郭での戦闘が本格化する直前、無惨は堕姫の実力を褒めそやし、彼女に禰豆子抹殺を優しい口調で命じた。

<堕姫 私の支配から逃れた鬼がいる><見つけて始末してくれ お前にしか頼めない>(鬼舞辻無惨/9巻・第83話「変貌」)

 しかし、結局、堕姫はこの無惨の命令を完遂できないままに終わる。無惨は「案の定 堕姫が足でまといだった」と言い捨てた。しかし、そんな状況になることを予測しながら、堕姫を遊郭作戦から外さぬままだった。
 

無惨の優しさと甘さの真意

<くだらぬ 人間の部分を多く残していた者から負けていく>(鬼舞辻無惨/12巻・第98話「上弦集結」)

 そんなことを言いながら、人間味の残った鬼たちを無惨は好んだ。風貌も心も人間的な「不完全な鬼」をそばに置き、彼は気まぐれに優しい言葉を投げかけていた。

 無惨とともに生き続けられる鬼など、本当はどこにもいない。無惨は孤独だ。しかし、数十年、数百年……無惨にとっては“ほんのわずかな”間だけだが、無垢で人間的な鬼は、無惨の心を少しだけ楽しませ、無惨の「人間ごっこ」の相手になった。それが鬼舞辻無惨なりの、“愛し方”なのだろう。

 彼が最後に求めるのは一体誰なのか。無惨の真意が描かれる物語の結末が楽しみだ。

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植朗子

植朗子

伝承文学研究者。神戸大学国際文化学研究推進インスティテュート学術研究員。1977年和歌山県生まれ。神戸大学大学院国際文化学研究科博士課程修了。博士(学術)。著書に『鬼滅夜話』(扶桑社)、『キャラクターたちの運命論』(平凡社新書)、共著に『はじまりが見える世界の神話』(創元社)など。

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