でも、吐夢はいつどこで感情を出せばいいかもわからないし、目で語る人物でもないので演じるのが難しかったと思います。佐久間さんの目は動いていないけれど、内面の動きが感じられて、吐夢の心にエンジンをかけているように思いました。それがすごく伝わってきて、それに応えて自分の目も止めて、歯車が合っている感覚になりました。

「起こり得る」にぞくっ

―登場人物の歪んだ愛を通じて、さまざまな恐怖も描かれている。

土屋:私が一番恐怖を感じたのは、マッチングアプリ上のやりとりをアプリの運営の人たちが見ているシーン。「LINEを運営の人に見られてたら、怖い!」と思ってしまいました(笑)。

佐久間:あれは怖かったよね!「あんな画面見られるの?」って思った(笑)。もしあんなふうに見られたら、「友達にどうでもいいLINEばっかり送ってるな」とか思われるかも。

 僕は知らない人が勝手に敷地内に入ってきて、話しかけてくるシーンが一番ぞくっとしました。当たり前のように描かれているからこそ、「こういうことが日常でも起こり得る」という恐さを感じました。

土屋:たとえば母親が子どもに対して抱く、本能的に「この子を守らなきゃいけない」と思うつながりは、輪花と吐夢の関係性にも通じると思いました。

佐久間:恐怖とは真逆の話になりますが、僕は人に愛を与える「アイドル」という職業が大好きです。自分が人のことを思い、楽しんでもらうために行動すると、喜んでくれる人がいる。そのための努力を嫌だと思ったことは一度もありません。

 ただ、必ずしも全員に好かれるわけじゃない。そういうときは、スヌーピーの「僕のことを好きじゃない誰かのことでくよくよする時間はない。僕は僕を大好きでいてくれる人を大好きでいるのに忙しすぎるから」という名言を思い出します。大切にするべき言葉だと思っています。

(構成/ライター・小松香里)

AERA 2024年2月19日号