「生まれてくるまでは、元気に生まれてくるかな?とか、子育て大丈夫かなとか、心配になりますよね。でも、夫が整えてくれた万全な介護体制があるし、生まれてきたら心配はなくなりました」
武藤さん自身も、子育てへの参画は、意識的に行っている。
「僕の場合は、体の制約もあり一般的なやり方を真似することができない。娘の直接のお世話は妻にお願いすることになる。だから買い物など僕にできることは率先してやるようにしていますよ」
限界つくらない生き方
制約をポジティブに生かす試みとしては、「テクノロジーをフル活用して、僕らならではの育児スタイルを生み出していきたい」と抱負を語った。
「世間的にはALSは、ネガティブなイメージが多い。自分にも不安はある。でも、未来を信じて、夢を言葉にすることからだと思っています。信じられるようになるまで、なんとか一つひとつ行動していくんですよね」(武藤さん)
娘の誕生以来、武藤さんが発信するSNSには、お祝いのメッセージが続々と届いている。「勇気をもらいました」などのメッセージに、木綿子さんはただただ恐縮してしまうと話す。
「生まれてきただけなのにね。祝福されてありがたい。娘はまあ、優しい子にはなるんじゃないですか。それか、思いっきり自分の道を行くか。だって、こんなに好きなことをやってるお父さんが脇にいるんだから(笑)」
「ゆあ」の名に込めたオリジナリティーという意味では、武藤さんこそ、独創性のある人生を歩んできた代表格と言えるだろう。「限界をつくらない生き方」を地でいく挑戦を続けてきた。目の動きで音楽や映像を操るDJツールも開発。DJのライブ活動にも精を出す。そのパフォーマンスで東京2020パラリンピック開会式にも出演。武藤さん夫婦の人生はドキュメンタリー映画「NO LIMIT,YOUR LIFE ノー リミット,ユア ライフ」に。現在、全国各地の上映館に挨拶回りをしている。
「『へえー、そんなにもポジティブに考えていたんだ!』ってこちらが驚くぐらい、まーくんはいつもポジティブなことしか言わないし、どんどん行動していくんです。私も引きずられています(笑)。こういう生き方もあるんだよっていうのを、みなさんに見せていけたらいいと思いますね」(木綿子さん)
(ジャーナリスト・古川雅子)
※AERA 2024年2月19日号