武藤さんの出演作、メディアパフォーマンスの「縛られたプロメテウス」(文化庁メディア芸術祭アート部門大賞受賞)は今年4月にスペインで公演予定(撮影/写真映像部・和仁貢介)

 オリィさんとは、「盟友」と呼び合う仲。ゆあちゃん誕生のニュースを知るや、オリィさんは武藤さんにサプライズのプレゼントを贈った。それは、腕が動かない武藤さんの腕代わりになるロボットアーム。遠隔で操作する。武藤さんはゆあちゃんとアイコンタクトを取りながらこの「手」をゆっくり振ってあやしてみた。すると、ゆあちゃんもしっかり目を見ながら、武藤さんに手を振りかえしたという。

切れ目ない介護の体制

 このロボットアーム、まだ開発途上で、武藤さんが指先スイッチで選択して、あらかじめ設定したモーションを操作。今後は視線入力や、頭の中の「脳波」で即時に操れる仕組みも作ってみたいと武藤さんは期待している。

 振り返れば、ALSと診断されたときは、子どもがいる未来を思い描く余裕は全くなかったという。そもそも、頭の中を大きく占めていたのは、「自分はどれだけ生きられるのか」という不安と、「なぜ、若くして自分がこの病気に?」という理不尽さだった。当時すでに付き合っていた木綿子さんと、将来についてとことん話し合った。病気をどう受け止めるか。ともに悩みぬき、結婚を決めた。

 病は進行し、武藤さんは徐々に腕が上がらず、歩けなくなった。当初、武藤さんは役所からの認可が下りる介護の支援時間が限られ、働きながら介助を担っていた木綿子さんに負荷がかかりすぎ、木綿子さんが家を飛び出したこともあったという。

 その後、切れ目のない介護の提供体制を整えるため、行政と粘り強く交渉を続け、19年には訪問介護の会社も立ち上げた。

「何よりも妻が子どもを見守るだけで済むように、長い年月をかけて24時間の介護体制を確立してきましたよ」(武藤さん)

1年半かけて家探し

 以前、住んでいた自宅では、子育てするには部屋が足りなかった。妊活の条件として、木綿子さんは「引っ越し」を挙げた。いずれエステティシャンの仕事に復帰することも見越して、保育園や学校への通いやすさ、勤務先へのアクセスなども考慮に入れた。1年半かけて家を探し、子育てに集中できる環境を整えられたことで、妊活にも踏み切れたという。

「おなかにいる時から、まーくん(武藤さん)は、ゆあちゃんの曲を作っていた。自分でデザインしたTシャツを、楽曲ジャケットにも使うみたいですよ。それに、私がつわりの時から我慢していた大好物のお寿司を注文してくれたこともあった。自分ができることを通じて、子育てに関わろうとしてくれているのが、何より嬉しい」

 とはいえ、木綿子さんは、子どもを持つことに、不安がないわけではなかったという。

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