難病のALS患者の武藤将胤さんと木綿子さん夫妻に待望の娘が誕生した。長年かけて武藤さんの訪問介護の24時間体制を整え、ようやく我が子を迎えた。AERA 2024年2月19日号より。
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〈生まれてきた瞬間の産声は一生忘れない感動の音でした!〉
昨年11月、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の啓発団体「WITH ALS」代表理事でクリエイターの武藤将胤(まさたね)さん(37)は、父親になった喜びをXでこう発信した。
ALSの診断を受けて10年目。武藤夫妻は2015年に結婚した当初から「子どもを持ちたい!」と願い、周囲にも公言していた。武藤さんは、徐々に全身の筋肉が動かせなくなる難病を患っていようとも、諦めることはなかった。時間をかけて訪問介護の24時間体制を整えるなどして、妊活をスタート。不妊治療を始めて約半年で、待望の赤ちゃんを授かった。
昨年12月、記者が出産祝いで新居を訪ねると、妻の木綿子さん(40)は生後1カ月(現在3カ月)の娘のほわほわのほっぺを触りながら、感慨深げに言った。
「オギャーって出てきた瞬間にかわいすぎて、ちっちゃくてはかなくて、『あ、もうこれは私たちが守らなきゃ』って思ったんですよ」
話す内容は視線入力で
名前は「ゆあ」。武藤さんが掲げるメッセージ「NO LIMIT,YOUR LIFE」(あなたの人生に限界はない)の「YOUR」から着想した名前だという。
「『あなたならではの、オリジナリティーあふれる生き方を作ってほしい』という願いを込めています」(武藤さん)
武藤さんは病気のために声を失ったが、過去に録音した自身の声から作った音声での会話が可能だ。現在は、目の筋肉がわずかに動くのを利用して、視線入力システムでパソコンを操作し、話す内容を選択する。スピーカーから流れる声のトーンは「嬉しいモード」に設定。娘へのメロメロ度合いまで細やかに表現していた。隣に座る木綿子さんはこう話す。
「言葉の内容はまだわからないだろうけれど、パパの声はちゃんとわかっていると思う」
自分の声を基にした「合成音声」で発話ができる仕組みは、東芝デジタルソリューションズと共同開発して実現。それをオリィ研究所代表でロボットコミュニケーターの吉藤オリィさん(36)らが開発した、「視線」で入力できるソフトと連携させ実現した。