しかし、3000万円までなら立件しないというのは、単に検察の怠慢でしかない。起訴しないから有罪にならないだけである。これまで裁判で3000万円未満なら無罪だという判決が出たことは一度もないのだ。

 日本の検察は、客観的証拠によって立証するということが苦手だ。だから、とにかく自白に頼る。日本ほど自白に頼る検察は先進国にはないと言っても良いだろう。だから、自白してくれなければ、今回のような案件はことごとく不起訴になる。法律も甘いのだが、そもそも、検察の能力が低くやる気もないために、これほどの政治スキャンダルが野放しにされてきたのだということを国民はよく認識する必要がある。

 今回の事件で脱税について立件が見送られたことはまさにそれを象徴する出来事だ。

 多くの国民は、これも法律が甘いから政治家が逃げおおせてしまうのだと思っているかもしれないが、それは大きな間違いであることを今回の市民による告発は明らかにした。

 どういうことか順を追って解説しよう。

 まず、一口に裏金と言ってもいくつかの異なるタイプがある。ここでは今回の市民団体による告発状にしたがって安倍派の裏金を3つに分類した。

 第一は、各議員がパーティー券の売上金を安倍派に納めたあとで、ノルマを超えた分の金額を安倍派が議員側に返すやり方だ。形の上では安倍派の収入に計上された上でキックバック分も各議員の政党支部の収入にも計上される。量的規制に違反しない限りは、政治資金規正法上は直ちに違法とは言えない。

 第二は、各議員がパーティー券の売上金を安倍派に納める際に、ノルマを超えた分の現金を安倍派が各議員に返すやり方である。安倍派の収入に計上しないだけでなく、各議員には政治資金規正法上の収入の記載をしないように念押ししたもので、各議員の政治資金としても表に出ない。非常に汚いやり方である。

 第三は、もっと酷いやり方だ。各議員がパーティー券の売上金を安倍派に納める際に、安倍派に収入があったのにそれを報告せず、その分を各議員の懐にしまい込む、「中抜き」のやり方だ。本来は、安倍派のパーティー券を売っているのだから、その売り上げは安倍派のものであるにもかかわらず、勝手に自己のものにしているので、横領罪になる可能性がある行為である。また、パーティー券の購入者に対しては、安倍派のパーティー券だと言って売ったのに、実際は、自分のものにしているので、支援者に対する詐欺罪になる可能性すらある。

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「政治資金」と報告すれば非課税というのは「フェイク」