「全然勝てなかったです。あまり努力もしていなかったので仕方ない結果なんですけど。かなりしんどくて」
普段の師匠は、ユニークでほがらかな人柄で知られている。一方、将棋に向かう姿勢は真摯で厳しい。
「当時、師匠は奨励会幹事をされていて。私の将棋を見てけっこう怒られていました」
成績不振のため、磯谷は奨励会を去った。
「高1で退会になったあと、高2で奨励会試験をまた受けて、落ちてしまったんです。そこからすぐに気持ちの切り替えができなかった。女流棋士はあまり考えてなくて。女流公式戦で上位に進んで資格を得るチャンスがあったら、ぐらいの気持ちでした」
高校卒業後は東京の国士舘大学に進学した。
「インカレで早稲田の将棋部に入って、そこで川島滉生くん(学生名人、伊藤匠七段の元ライバル)とかに教わりました。1年の時に学生女流名人戦で優勝して、学生大会はもういいかなと。やっぱり、男性に交じっての全国大会で結果を残したい気持ちがあって」
性別は関係のないアマ大会では、女性の数は少ない。そこで気後れをせず、闘志を前面に出して戦う磯谷の姿は目をひいた。
2023年、磯谷は全国アマ将棋レーティング選手権で男性のアマ強豪を次々と連破し、3位に入賞した。
「結局、それが最高で終わってしまったんですけど」
磯谷はそう振り返る。しかしそれは女性の将棋史において、大変な快挙だった。(構成/ライター・松本博文)
※AERA 2024年2月12日号