■民衆党
選挙の台風の目になったのが、元台北市長の柯文哲が率いる「第三極」の民衆党だ。 近年の台湾では、国民党はもちろん民進党も長く政権を担当して権威化したとされ、また台湾のアイデンティティーや対中関係をめぐる議論も、答えが出ぬまま延々と繰り返されている。 民衆党は子育ての重視などの若者向けの政策(バラマキやポピュリズムの気配も強い)を打ち出すいっぽう、国家の枠組みや対中関係を焦点化しない政策を打ち出したことで人気を集めた。 若者の人気が高く、世論調査では30代以下の有権者の約5割が民衆党支持だとされる。支持者の出自は外省人も本省人もバラバラだ。
雰囲気の違いは、実際に集会に行くだけでも明らかだった。1月12日の台北市内で公称35万人を集めたという集会では、 若者や子連れの若い夫婦の姿が圧倒的に多く、解散後も旗を振って道を歩いたりコールをあげたりする人がいるなど、他の2党と比べて圧倒的に”熱気”はある(イメージとしては、プロ野球やJリーグの熱心なファンを連想させる)。
民衆党の旗やグッズはスタイリッシュなイメージなものが多い。民進党と違って国旗にアレルギーがないので、集会現場では国旗と柯文哲支持の旗がいずれも多く見られるいっぽう、実質的にリベラルや西側の象徴であるレインボー旗やウクライナ国旗は出ていない。ピカピカ光る各種のケミカルライトが支持者のグッズとして用いられているため、事情を知らずに見ると韓流アイドルのフェスのようにも見えなくもない。
民衆党陣営のネット戦略は巧みで、YouTubeチャンネルやLINEの情報発信の質と量は主要3政党のなかでも随一だ(ただし高齢者層にはほとんど響いていないらしく、党首の柯文哲が支持者の若者たちに「家のおじいちゃんおばあちゃんにも私のYouTubeチャンネルを見せてくれ」と呼びかけたりしている)。同党の選挙費用は他の2党よりも乏しいが、ネット宣伝に費用の7割を投入したという話も伝わっている。
30代以下の若者層は、 前回と前々回の国政選挙では民進党を支持する傾向があったが、8年間の蔡英文政権下での経済の停滞や閉塞感への不満が強く、今回は民衆党に流れた形だ。民衆党は柯文哲の一人政党で政策のブレも大きいため、次回の選挙まで党を維持できるか不安視する声もあるものの、 さておき勢いがあった事は間違いない。
台湾アイデンティティーとリベラル・西側民主主義の先端にいるイメージを打ち出す民進党と、古色蒼然とした中華民国のムードがまだまだ漂う国民党、そしてアイデンティティーを論じず「パリピ」的な雰囲気すらある民衆党……と、各党の支持者の雰囲気の違いは、そのまま台湾の社会のいろいろな顔を反映しているといえる。とりわけ若者層の動きは、4年後、8年後の総統選と立法院選のゆくえを占う上でも、注目したいところだろう。
(ルポライター・安田峰俊)
※AERAオンライン限定記事