WBC準決勝のメキシコ戦で先発し、力投した

 ロッテを取材する記者は複雑な表情を浮かべる。

「球団は佐々木朗が故障で壊れないように細心の注意を払って育ててきました。高卒1年目は1、2軍で一度も登板せず、1軍に同行し、肉体強化に注力した時は野球評論家から『過保護だ』『試合で投げさせないと成長しない』など批判の声が上がりましたが、球界の宝を大事にする方針はブレなかった。2年目以降も体ができあがっていないため、先発ローテーションの登板間隔を空けて目先の活躍にこだわらなかった。他球団だったらここまで大事に育成されていたか。そう考えると、佐々木朗はまだまだチームに恩返しする結果を残しているとはいえない。エースにふさわしい実績を残してから、メジャーに挑戦するのが筋ですよ」

マウンドに上がらず

 批判覚悟で佐々木朗を守る――。球団の強い信念が見えたのは、完全試合を達成し、次回登板となった22年4月17日の日本ハム戦(ZOZOマリン)だった。この試合で八回までに無安打無失点の好投。14奪三振で走者を1人も出さず、史上初の2試合連続完全試合の期待がかかったが、0-0の九回に疲労を考慮されてマウンドに上がらず。世界史上初の2試合連続完全試合は幻に終わり、スタンドからはため息が漏れた。

 当時の井口資仁監督は苦渋の決断だっただろう。一人の野球人としてこんな大記録を達成できる機会はなかなかない。だが、「令和の怪物」と称された規格外の右腕には未来がある。佐々木朗の意思を確認したうえで、限界を超えてまで投げさせるべきではない――。大記録達成を目前にしても、将来を見据えた育成方針は揺らがなかった。

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