AERA 2024年2月5日号より

「ESを書く作業に企業が望むのは、思考の跡が見えるかどうか。AIが作った文章をもとに自分なりに編集したとしても、そこには自身のオリジナリティーがないのではないか。企業が望む点からはかけ離れているし、いくらタイパ重視とはいえ、自身の人生を左右する就活においてAIを活用するのは、学生にとっていいことと言えるのかどうか……」

「賛否両論」併記の弱点

 多くの大学ではAIの活用を全面的に禁止にはしていない。ただ、AIが書いた文章と学生が書いた文章の見分けは難しく、各大学はリポート課題や論文作成において制限を設けるなど、AIとの付き合い方は試行錯誤の途中。問題はその使い方だ。

「AIの作文には特徴があって、結論づけずに賛否両論を併記することが多い。AIに慣れている人が見れば、これはAIをコピペ(コピー・アンド・ペースト)したな、とすぐ見抜かれてしまうようです。大学教授にしても採用担当者にしても、AIの文章を丸々転写というのは好ましくないというのが共通認識だと思います」(神戸さん)

 冒頭の女性は結局、ES作成にAIは利用しなかったという。

「大学でもAI利用に対する指導は受けていました。もっともらしい文章はできますが、自分の言葉じゃないというのがしっくりこなかったし、相手にも伝わらないと思ったので」

 その思いが実ってか、女性は晴れて第1志望の企業に内定したが、ChatGPTをフル活用していた周囲の学生も内定を勝ち取っていたという。好むと好まざるとにかかわらず、就活にはAIの活用が不可欠になる時代が来ているのかもしれない。

イラスト/小迎裕美子(AERA 2024年2月5日号)

「テレビ」効果的の理由

「AI活用」が就活の新しい三種の神器になるとすれば、残りは何になるだろうか。一つは、「キャリア支援センター」だ。大学の必須サービスとしてほぼすべての大学に設置される。

「現代は情報が何でも手に入ってしまい、真偽のわからない情報に惑わされることはかつてより多い。就活では確かな情報にアクセスすることが最も大事。キャリア支援センターはOB・OGや在学生の就活の相場観をよくわかっているし、一番確かな情報源になります」(神戸さん)

 キャリア支援センターでは模擬面接やESの添削など、生身の人間が対面で親身に相談に乗ってくれる。SNSなどインターネット全盛の時代だからこそ活用したい施設だ。

 もう一つが、時代を逆行するかのようだが「テレビ」だ。

「最終的に面接で対応するのはベテラン社会人。年配の人たちが関心を持つ物事について、自分がどんな考えを持っているかが問われます。日頃からニュースに触れることが大事なのはかつてと同じですが、スマホだけではフィルターによって自分が関心がある情報しか流れてこない。そこで強制的にニュースが入ってくるテレビが生きてくるわけです」(神戸さん)

 若者のテレビ離れが叫ばれて久しいが、あえてテレビにかじりつくのも悪くなさそうだ。(編集部・秦正理)

AERA 2024年2月5日号より抜粋

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秦正理

秦正理

ニュース週刊誌「AERA」記者。増刊「甲子園」の編集を週刊朝日時代から長年担当中。高校野球、バスケットボール、五輪など、スポーツを中心に増刊の編集にも携わっています。

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