グループリーダーを務め、いろんなことを勉強させてもらった。研究に関わるいろんな情報を把握し、国の科学技術政策とかも大学から情報を与えてもらって勉強した。企画運営の勉強もしました。この経験がなければ、たぶん内閣府の総合科学技術会議(現・総合科学技術・イノベーション会議)の議員にもならなかったと思うし、その後のいろんな仕事もしていなかったと思う。
――総合科学技術・イノベーション会議は、総理大臣が議長を務めて科学技術政策を決定する、日本の司令塔ですね。その議員も重要なお仕事ですが、文部科学省が2007年から始めた「世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)」で最初に採択された5拠点の一つ、東北大の原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の代表を務められていたことを、かねがねすごいなあと思っていました。
私が代表をしたのは、拠点ができた5年後からです。それ以前に、私ぐらいの年代の数学者はみんな知っている「忘れられた科学-数学」っていう報告書が文科省科学技術政策研究所(ナイステップ、現・科学技術・学術政策研究所)から出たんです。
――あ~、出ましたね。ナイステップが日本の数学研究のあり方にある種の危機感をもって2005年にワークショップを開き、翌年、それまで進めてきた調査研究を取りまとめて報告書を公表した。そこで語られていたのは「行政が数学を忘れていた」という反省です。
そう、それで科学技術振興機構(JST)が数学も支援するということになったので、「これは応募しないとね」と思った。募集されていたのは「数学と諸分野の協働によるブレークスルーの探索」という領域で、「諸分野」という要素が必要なんだけど、東北大は材料科学が強いから。
――そうですね。本多光太郎先生以来の伝統がある。
これは学内委員会の委員をやっていたことのメリットの一つだと思うんですけど、会議でいろんな人に会うと、「どんな研究をしているんですか」とかいう雑談もする。すると、「数学をこんなふうに使えないか」と相談されて、結構ほかの分野から数学への期待があるんだなって肌で感じていたんです。
歴史的に初めてJSTが数学を支援してくれることになったので、応募しよう、応募するなら材料科学との協働だよねということで、東北大の材料系の先生たちと一緒にCREST(クレスト)というチーム型の研究プログラムに「離散幾何学から提案する新物質創成と物性発現の解明」というタイトルで応募しました。採択されたのが2008年で、数学領域での最初の採択です。2013年度までの5年間、すごく楽しく生産的に研究ができた。私は理論グループの代表であると同時に、実験グループも含めた全体の代表を務めました。