ちなみに、最近読んだある冊子で、同じような疑問を持って一〇年以上も前から鳥の言葉を研究されている人がいることを知りました。東京大学先端科学技術研究センター准教授の鈴木俊貴さんという方で、主にシジュウカラをはじめとする鳥類の言葉の研究を行っています。鈴木さんによると、鳥たちには状況によって使い分けている鳴き方があるほか、文法能力にも長けているようで、他の種類の鳥が発する鳴き声でもある程度理解し、危険を知らせている鳴き声を聞くと、同じように回避行動をするということです。ただし、すべての鳥がそうしているのではなく、たとえばスズメの中にはシジュウカラ語を理解して反応する「インテリ・スズメ」と、そうでないスズメがいるようです。そのことは実験で確認できたそうです。他にもいろいろと興味深いことをその冊子の中で語っていました。

 私はそこまで深く研究していませんが、興味を持ったことについて深く考察する姿勢はいつも大事にしています。そして、最近気付いたのは、加齢によって肉体は衰えていく一方で、興味の対象が広がり、洞察力などはむしろ深まっていると感じる瞬間があることです。これまでと見ている風景が違ってきた中で、新たな気づきに出会える機会が増えたからでしょう。そのことを素直に喜び、考察することを楽しんでいるうちに、歳を取って起こるのは悪いことばかりではなく、よいことも案外あるように思うようになりました。

 長く生きているということは、いろいろな経験をしているということです。それを考えの深さや厚さにつなげることができたら、まわりで起こっている様々なことをいろんな角度から見て考察する、豊かなものの見方ができるでしょう。それは自分が楽しいことだし、ためになりそうなことはまわりに話してなにかに役立ててもらうというのもいいと思います。そんなふうにできるのが、まさしく「よい老い」ではないかと思います。

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畑村洋太郎

畑村洋太郎

1941年東京生まれ。東京大学工学部卒。同大学院修士課程修了。東京大学名誉教授。工学博士。専門は失敗学、創造学、知能化加工学、ナノ・マイクロ加工学。2001年より畑村創造工学研究所を主宰。02年にNPO法人「失敗学会」を、07年に「危険学プロジェクト」を立ち上げる。著書に『失敗学のすすめ』『創造学のすすめ』など多数。

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