AERAの将棋連載「棋承転結」では、当代を代表する人気棋士らが月替わりで登場します。毎回一つのテーマについて語ってもらい、棋士たちの発想の秘密や思考法のヒントを探ります。34人目は、伊藤匠七段です。AERA 2024年1月29日号に掲載したインタビューのテーマは「私のライバル」。
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令和の名伯楽・宮田利男八段の門下からは現在までに、本田奎六段、斎藤明日斗五段、伊藤匠七段の3人が棋士となった。伊藤から見て、本田は5歳、斎藤は4歳年長だ。
「私が小学生の頃、斎藤さんに角落ちで負けた記憶があります。けっこうそれはショックだったです(苦笑)」
伊藤がまだ奨励会に在籍していた頃、師匠は愛弟子たちについてこう語っていた。
「タイトル取れとかなんとかっていうよりも『早く四段になってほしい』。もうそれで終わりです」
2019年度。棋士としてデビュー間もない本田が棋王挑戦権を獲得した。
「自分も刺激になりました」
伊藤は難関の三段リーグに5期在籍した。
「最初の頃は、実力的にも足りてなかったです。昇段争いにもからんでなかったので」
2020年度前期のリーグでは15勝3敗の好成績で31人中最上位での通過を決めた。
「急に突き抜けて勝つことができたという印象ですね。自分で特に何かを変えたわけではないですし、あまりそういうの(急な実力向上)を実感することもないんですけど」
2020年10月、伊藤は17歳で四段に昇段。現役最年少棋士の座は藤井聡太から3カ月ほど年少の伊藤に代わった。史上最年少17歳でタイトル保持者となった藤井にも、伊藤の強さは耳に届いていた。その証拠に21年のABEMAトーナメントでは、藤井はドラフトで伊藤を指名している。
「まさか藤井さんが選んでくれるとは思っていなかったので、とても驚きました」
藤井、伊藤に9歳年長の実力者・高見泰地七段を加えたチーム「最年少+1」は圧倒的な強さで優勝を飾った。
21年、伊藤は若手の登竜門・新人王戦で優勝した。