「5歳の頃からご指導いただいた師匠には、少し恩返しができたかなと思います」
表彰式のスピーチで、伊藤はそう述べた。恒例の記念対局では、19歳の伊藤新人王が19歳の藤井四冠に挑戦。終盤、観戦者の目には勝敗不明になったようにも見えたが、結果は藤井の勝ちだった。
「かなりきわどい順で踏み込まれて、かなり驚いたんですけど、やってみるとやっぱり余されてました」
22年。藤井と伊藤は棋王戦の敗者復活戦で対戦した。
「自分の中では少し自信のある変化だったんですけど。それを上回られてたというところですかね」
伊藤を下した藤井はその後、挑戦権を獲得。六冠に駆け上がり、さらに現在では八冠を独占している。藤井についてはどう思う?
「八冠にふさわしい実力なので。タイトル戦で全く負けないですし。むしろ現状だと、藤井さんがタイトル戦で負けることの方が、なかなか想像がつかないです」
最後に改めて、今後の棋士としての目標は?
「タイトルを取りたいということですかね」
つまりそれは、藤井に勝つしかないということだ。
23年。伊藤は竜王戦七番勝負で藤井に敗退した。しかしほどなく、伊藤は棋王戦で兄弟子・本田らを下して、藤井への挑戦権を再び獲得した。
「やはり一度タイトル戦を経験して、より、またタイトル戦に出たいという思いが強くなったので。今回挑戦できてうれしく思います」
21歳の藤井棋王に21歳の伊藤七段が挑む棋王戦五番勝負は2月に開幕する。(構成/ライター・松本博文)
※AERA 2024年1月29日号