ある大手銀行では数年前、支店に配属された新人社員が上司から自民党員になるよう言われ、断りきれずに入党。勤務時間内に特定の候補をアピールするハガキを書かされたことがあったという。それは公務員の世界も同じだ。
2021年、山口県の小松一彦副知事(当時)が同年秋の衆院選の際に、自民党候補の後援会に入会するよう部下を通じて県職員らに要請。県庁や出先機関にある複数の部署で、幹部職員が勤務時間中に後援会の入会申込書を部下に手渡し、記入させていたほか、決起集会などへの動員も行われていたことが発覚し、小松氏は公職選挙法違反(公務員の地位利用)の罪で略式起訴された。
違法性の認識が希薄
いずれも企業・団体と自民党の距離感に首をかしげざるを得ない事態だ。自民党は現在、最大派閥・安倍派(98人)の政治資金パーティーをめぐる事件で揺れているが、共通しているのは、「違法性の認識が限りなく薄く、倫理観に欠ける」という点だ。元衆院議員の女性は、
「当選1、2回目の新人議員は人脈に限りがあるケースが多く、キックバックの恩恵を受けることがほぼありません。県連のパーティーであれば、いくらパーティー券を売っても県連の収入になるし、自分の収支報告書に記載することもない。だから、議員本人にもその周囲にも違法性の認識が育たない。その感覚が民間企業にも広がり、当たり前のように党員になることを強制する事態が横行している。時代が流れても、自民党を取り巻く状況が何も変わらない一因だと思います」
と呆れたように話す。
変わり始めた認識
地方議会や投票行動に詳しい東北大学の河村和徳准教授(政治学)は、
「党員になることはもちろん、勤務時間中にハガキを書くことなどは決して強制してはならないことです。日本にはコミュニティーに準拠する文化と習慣があり、組織が応援する人を自分も応援しなければ関係がまずくなるのではないか、出世に響くのではないか、と考え従ってしまうケースが多い」
と話す。その一方、
「ここ数年のことですが、選挙にまつわる強制は立派なハラスメントであるという認識が広がりつつある」
と変化も口にする。それは、社会全体が様々なハラスメントに厳しくなっているからでもあるが、今回の取材で興味深い観点を耳にした。