「死」にまとわりつかれる杉元佐一
軍人になる前の杉元は、家族全員を結核で亡くしていたが、そばで看病していた彼自身が病にかかることはなかった。ひとつ目の「死なない」エピソードである。その後、日露戦争の激戦地である旅順・二〇三高地の戦いにおいても、二つ目、三つ目と、多くの「死なない」経験を重ねていく。やがて彼は「不死身」と呼ばれるようになった。アイヌの少女アシリパから、どうして不死身と呼ばれているのか聞かれた時に、杉元はこう答えた。
「俺が戦争で学んだ死なない方法はひとつさ 殺されないことだ アシリパさん 俺は殺人狂じゃない …でも殺されるくらいなら躊躇せず殺す」(杉元佐一/1巻・第5話「北海道部隊」)
杉元佐一の“本当の”姿
杉元は年下のアイヌの少女であるアシリパに対して粗野な振る舞いをしなかった。見下すこともなく、「アシリパさん」と丁寧に呼びかけている。アイヌ料理を作ってもらうと、アシリパに教えてもらったとおり「ヒンナ」(=食事に感謝する言葉)と言い、幸せそうな笑顔をみせた。手慣れた様子で人に攻撃しても、愛らしい子熊を殺すことにはためらい、アシリパや他のアイヌにも敬意をはらう、素朴で優しい一面を持っていた。
しかしその一方で、のちに仲間になった囚人・白石がひっそりと「こいつが一番おっかねえ」とつぶやくほどの狂気を秘めており、元新撰組・土方歳三にすら残酷な人斬りにたとえられる激情を持っている。どちらが“本当の”杉元佐一なのか。