『ゴールデンカムイ』の映画実写化が発表された時、あの筋骨隆々のキャラクターたちを誰が演じるのかが、大きな話題になった。とりわけ主役の杉元佐一(すぎもと・さいち)役を演じる山﨑賢人については、今回の「日露戦争の退役軍人」という荒々しい役柄と、そのイメージが合致するのかという懸念がささやかれた。だが、フタを空けてみれば、公開初日から高評価が相次ぎ、不安は完全に杞憂に終わった。原作である野田サトルのマンガ『ゴールデンカムイ』における「不死身の杉元」と山﨑との相関性、キャラクターの魅力について考察してみる。(注:山崎賢人の「崎」は正式には「たつさき」)
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「アイヌの金塊」をめぐる物語
『週刊ヤングジャンプ』(集英社)に連載された野田サトルの『ゴールデンカムイ』は、明治末期の北海道・樺太を舞台とした、「アイヌの金塊」をめぐる壮大な冒険活劇である。主人公・杉元佐一(すぎもと・さいち)は、重い目の病にかかった初恋の相手・梅子を良い医者にみせてやるために、真冬の北海道で砂金をとろうしていた。そこで偶然「アイヌの金塊」の話を耳にする。
杉元は黄金を手に入れるために、自分の窮地を救ってくれたアイヌの少女アシリパ(注:「リ」は小文字が正式表記)と、一蓮托生の“相棒”として協力し合うことを約束した。しかし、黄金の所在を示す暗号は、死刑囚に入れ墨として刻まれていることが判明。囚人たちの“生皮”を誰が手に入れるかをめぐって、日本陸軍第七師団の精鋭たち、北海道独立を夢見る元新撰組・副長の土方歳三、凶悪な脱獄囚らが入り乱れ、激しい戦いへと突入していく。
日露戦争の鬼神「不死身の杉元」
「ああ〜…カネが欲しい」と呟きながら、砂金とりに励む退役軍人・杉元佐一は、顔に大きな傷こそあれ、気性の荒さや乱暴者らしい気配のない青年だった。そばにいた酔っ払いの男は、「あんたの事 気に入った」と言いながら、気安くこんな言葉をかけている。
「杉元さん あんたついこないだ日露戦争から帰ってきたばっかりなんだよな? 『不死身の杉元』って呼ばれてたんだって? 鬼神のような戦いぶりだったそうじゃないか」(後藤竹千代/1巻・第1話「不死身の杉元」)
杉元はかつて戦場では、銃撃にも爆弾にもひるむことなく、何人もの敵兵を倒し続けていた。退役してからも、戦闘へのためらいのなさは変わらない。この酔っ払いの後藤から「アイヌの金塊の秘密」を教えられた直後、いさかいが起きて銃を向けられた時には、迷うことなく後藤の頭を岩で殴っている。反撃の際に、殺害への戸惑いの“間”が一切ないこと、これこそが厳しい戦場で生き抜いてきた杉元佐一の特徴のひとつなのだ。