杉元佐一とアシリパ(『ゴールデンカムイ』1巻・小樽編1表紙 集英社ジャンプリミックス、2024年)

実写版「不死身の杉元」の表現

 近年、人気マンガを原作とする作品のアニメ化と実写化には、「原作に忠実であれ」というファンからの要望が強く押し出される。しかし、アニメならではの描写、実写だからこそできる表現を何もかも無くしてしまうのは、良い選択肢であるとはいえない。原作の世界観を損なわずに、アダプテーションとして新たな魅力を付け加えていく必要があろう。

 実写映画や舞台の場合には「その役者だからこそできる演技」が観客から期待される。山﨑賢人の場合はどうだったか。彼は目を見開いて「人を殺す冷徹さ」を表現する時よりも、自分の身にまとわりつく「死」の血なまぐささに、自嘲気味に眉をひそめる表情が巧みだった。「不死身の杉元」として生きざるを得ない男の、悲哀と狂気が垣間見えた。

 戦場で「俺は生き抜いてやる」と言った杉元だったが、彼は何のために戦い、何のために生きようとするのか。「俺は不死身の杉元だッ!!」とくり返し叫んだ彼の願いは、本当に「不死身」であることだったのか。

 コミックス版は完結しているが、『ゴールデンカムイ』のファンはまだ増え続けている。映画、アニメの中で新しく紡がれていく、生き残りをかけた金塊争奪戦の続編が、今後も期待できる。

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植朗子

植朗子

伝承文学研究者。神戸大学国際文化学研究推進インスティテュート学術研究員。1977年和歌山県生まれ。神戸大学大学院国際文化学研究科博士課程修了。博士(学術)。著書に『鬼滅夜話』(扶桑社)、『キャラクターたちの運命論』(平凡社新書)、共著に『はじまりが見える世界の神話』(創元社)など。

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