片岡浩史(かたおか・ひろし)
腎臓内科医(東京女子医科大学)。医学博士。1970年、NY生まれ
撮影/飯田安国
片岡浩史(かたおか・ひろし)腎臓内科医(東京女子医科大学)。医学博士。1970年、NY生まれ撮影/飯田安国

片岡 もちろんそうです。医者は患者さんの社会的地位などではなくて、1人1人の体、病状に合った治療をしていきます。

佐藤 それから、診察室に入った患者は普通、自己紹介なんてしません。そんなことよりも、自分の病状を医師に訴えて、理解してもらうのが先ですから。そうすると、医師の側もその患者さんが何者なのか分からない、ということがおそらく普通にあるのでしょうね。

片岡 そうですね。しかし、そこは大問題だと私は思っています。

佐藤 患者側も何となく、病気以外の話をするのは控えるという心構えになっています。

 しかし、本来ならば医師と患者は共同体を作って、一緒に病気を治していく形にならないといけません。人間と人間の関係なのですから、患者の側からも自分は何者で、どういう仕事をしていて、何を大事にしているのか、ということを積極的に伝えていく必要があると思います。

片岡 いや、ただしそこは患者さんから言うのはむずかしいと思います。

 そもそも、医者は急に何が起きてもおかしくない状況で仕事をしています。病気は災害のようにやってきます。そのため、医者は仕事の時間配分を自分のペースでコントロールすることができません。体調不良の患者さんを抱えているときや、外来でも同じ時間に多くの患者さんを診察しているときなど、ときとして眼の前の患者さんのお話をゆっくり聞いてご希望にお応えすることができないことがあります。

 そして、すべての患者さんの状況を把握できるのは立場的に医者しかいないので、やはりまずは医者側から最初に聞き出すようにしなければなりません。とはいえ、なかなか医者の側からの「最初の1歩」を踏み出せていない現実はあるようです。

佐藤 他方、大学病院の医師たちは患者にオプション(選択肢)を細かく、細かく説明します。紙に書いて残して、なおかつ読み上げる。重要事項を読み上げるというのは、不動産屋の契約とよく似ていますよね。今はコンプライアンスがうるさくなっていて、多くの医師たちはそこのところで過剰に反応しています。

 それから、患者はあらゆるプロセスにおいて書類にサインをしないといけません。医者との信頼関係を築いている患者なら、「読み上げなくてもいいですよ」とか「この場でサインしますよ」と言うケースもあるのでしょうが、それでもやっぱり「この書類は家に持ち帰って、よく読んで、次回診察のときにサインをください」とか「サインした書類は次回診察のときに事務に出してください」ということになります。その場でサインさせるのは良くない、という了解が医学界全体にあるのでしょうね。「患者さんに考える時間を与えなさい」と。

片岡 手術のリスクを延々と話すよりは、お互いの話を聞くことに時間を使ったほうが本当はいいんですけどね。

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15分話せばお互いを深く知れる