伊藤詩織氏は誹謗中傷の投稿者に勝訴
この話を聞いて、ジャーナリストからの性被害を実名で告発した伊藤詩織さんのケースを思い出した人もいるだろう。ネット上で「売名行為」などの中傷が殺到したため、伊藤さんは2020年に提訴に踏み切った。投稿者に対して訴状で「性被害が虚偽で、金目当てで被害者を装っているとの印象を与える」と指摘。23年9月に勝訴判決が確定した。
「冷静に考えれば誰でも理解できるはずですが、売名や金銭目的で性加害を告発するというのは、あまりにリスクが大きすぎます。それこそ誹謗中傷が殺到するのは予測できますから、とてもではありませんが割が合いません。多くの被害者は必要がないにもかかわらず、自分を責めます。『軽率な行動で自分はけがれてしまった』と孤独や絶望感に苛まれます。そうした被害者の姿を私は間近で見てきました。『売名』や『金目当て』という批判は、あまりに的外れだと言わざるを得ません」(望月氏)
また、告発までの「期間」と「警察に行かないこと」をあげつらう誹謗中傷も典型だという。今回のケースで言えば、A子さんは被害にあったのは2015年と証言している。ネット上では「8年近く沈黙し、さらに警察ではなく文春に話すというのはおかしい」という投稿は数多くあった。
「事件直後の被害者は混乱の極みです。ショックに向き合えず、何とかして平静を保とうと、翌日も普通に出勤する人も少なくありません。普通の日常生活を送ろうと努力する被害者のほうが多いかもしれません。混乱しながらも被害に向き合うと、次は絶望感に突き落とされます。他人に被害を話せるようになるのに何十年もかかる人だっているのです。そのため、被害を打ち明けられるようになったというのは、それだけで大変な前進です。でも話して大丈夫な相手は誰なのか分からず不安です。警察よりマスコミのほうが受け入れてくれるイメージを持つ被害者がいても、全く不思議はないと思います」(望月氏)