隊長から最初にココを出すよう指示が出たので、私は家の中の状況を消防士に聞く。表通りから見て左から順に、押しつぶされた駐車場、居間、仏間と並んでおり、部屋同士は行き来できず、仏間は屋根に開けた穴からしか入れない。目視では要救助者は見当たらず、声掛けにも反応しなかったとのこと。
居間から捜索することにした。瓦の雪止めに足をかけ、ココを屋根と屋根の隙間に入れた。唯一、居間と通じているところだ。ココの動きをじっと見る。居間の入り口の前を行ったり来たりしたが、ほえることはなかった。
ほえないのも判断材料
次に2階の下敷きになった駐車場を捜索した。隙間を指して「捜せ」と指示するとココは暗がりの駐車場へ入って行く。がれきとホコリが積もる中、右に左に行って捜し、最後は奥の方へ姿を消した。ココがどの辺を捜しているのか、耳で動きを察知しようとするが、14キロの体重では、がれきを踏み締める音はなかなか聞こえてこない……。犬が捜索していれば声を掛けて作業を妨げてはいけないし、していなければ呼び戻して、次の展開を考えるが、見えないところでは判断が難しい。ここは犬を信じるしかない。
捜索を始めて7、8分が経った頃、隊長から次の犬に切り替える指示が出た。犬の集中力はそんなに長く続かないからだ。
「来い!」と響く声で呼ぶとココが戻ってきた。2カ所の捜索を終え、一度もほえなかった。この後、2頭目は居間の中を、3頭目は家の裏手などを捜索したが、ほえることはなかった。
救助犬が反応を示さないからといって要救助者がいないと断定はできないが、警察や消防が次のエリアの捜索に移る判断材料の一つにはなるのだろう。
現場が暗闇に包まれてきたので、午後5時11分、隊長は「捜索を終了します」と告げた。
待機場所の門前分署に戻ってきても疲れは感じない。それは2019年9月、山梨県道志村のキャンプ場で女児が行方不明になって捜索した時と同じだった。TEAM7の捜索は1日限りだったが、大雨が降り、大風が吹いた。靴の中は水浸し、下着まで雨水が染み込んだ。そんな状況でも、なんとか見つけたいという強い気持ちが疲れを感じさせなかったのかもしれない。
門前分署内の待機場所で、カップ麺などで夕食をとり、午後8時過ぎ、犬の散歩。「今日はよく頑張ったな、明日も頼むぞ」とココを労い、おやつをあげる。