そして手術からわずか1カ月半後、3月7日にチームに復帰。本格的に練習を再開する。
「やはり抗がん剤を飲みながらなので、日によってコンディションの良し悪しがありましたね。ひどい吐き気などはなかったですが、粘膜が腫れやすかったり、血圧が下がって動きづらかったり。練習時間や場所を調整してもらいつつ調子を上げていきました」
進行したがんを克服して、プロ野球の第一線に復帰する。前例のないことで、医師や球団のトレーナーたちも手探りの状態だったのではと話す。それでも、原口選手自身には復帰までの確固たるイメージがあった。
「6月の交流戦なら、DH(指名打者。守備に就かない、打撃専門のポジション)があるので。そこが一軍復帰のチャンスだと、自分のなかで目標を立てました。するとそこから逆算して、練習の強度を何月にはここまで上げたいだとか、やるべきことが見えてくる。あとはそれを一つひとつクリアしていくだけです」
その狙い通り、6月4日の対ロッテ戦で一軍に復帰。9回に代打で送り出され、見事なヘッドスライディングで2塁打を決めた。
オールスター戦の忘れられないホームラン
術後の後遺症でトイレの回数がなかなか元に戻らないことや、抗がん剤による体調の波にも悩まされつつも、一軍での出場を重ねていく。そして迎えた抗がん剤治療最終日の7月9日。とっておきの朗報が原口選手のもとに届いた。その年のオールスター出場選手に選ばれたのだ。
「本当はオールスターに出られるような成績ではなかったんです。でも、『プラスワン投票』という最後の1枠で選んでいただいて、まるでファンのみなさんからプレゼントをもらったようでした」
12日の第1戦、一軍復帰後初ホームランを放つ。翌第2戦でもホームランを打ち、完全復帰を印象付けた。
「打席に立ったときは、まずは元気な姿をお見せしよう、という気持ちでした。でも思いがけず良いホームランを打てて、ファンのみなさんが喜んでくれて、すごくうれしかったです。オールスターの2戦は、野球の喜びを思い出させてもらった試合でした」