AERAの将棋連載「棋承転結」では、当代を代表する人気棋士らが月替わりで登場します。毎回一つのテーマについて語ってもらい、棋士たちの発想の秘密や思考法のヒントを探ります。34人目は、伊藤匠七段です。AERA 2024年1月22日号に掲載したインタビューのテーマは「印象に残る対局」。
【貴重写真】和服じゃない!スマホ片手にデニム姿の藤井聡太さん
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2013年、小5だった伊藤匠は、宮田利男現八段に入門。棋士への道を歩み始めた。
「奨励会試験が大変だったことは覚えてます」
当時、1次試験は4勝通過、3敗失格だった。
「1日目で1勝2敗。2日目も必敗の将棋を拾ったり。そこで受かったのはかなり大きかったと思います。奨励会に入る前がちょっと伸び悩んだ感じで。入ってからは意外と、それなりに順調に昇級していったという気がしますね」
奨励会は関東と関西に分かれている。関東の伊藤は比較的速いペースで昇級、昇段を重ねていた。一方関西では同い年の藤井聡太が、史上最年少記録を更新しながら駆け上がっていた。
「向こうが(中1で)三段になったぐらいから、意識はしてたような気がします」
2016年度前期の三段リーグ。中2で参加1期目の藤井は、17戦目、坂井信哉(伊藤の兄弟子)に敗れている。
「これで昇段はなくなった」
伊藤はそう思った。しかし藤井の競争相手たちも敗れていた。藤井は最終18戦目で西山朋佳三段(現女流四冠)に勝ち史上最年少14歳2カ月での四段昇段を決めた。
「なんか、歯がゆい思いみたいなのはあった気がします」
藤井新四段はデビュー以来負けなしで快進撃を続けた。伊藤は藤井の対局の記録係を務めながら、正直なところ、連勝が早く止まってほしいとも思っていた。しかし藤井は公式戦29連勝を達成。社会的なフィーバーが起こった。
伊藤は中3の12月に三段昇段。翌年度開幕の三段リーグ参加まで少し時間ができたので、受験勉強をした。
「やっぱり高校ぐらいは行った方がいいのかなと思って」
伊藤は難関校に合格した。
「『高校に行けなかったのか』って言われるのがシャクだから、受けただけっていう気がするんだよね、あいつは(笑)。まあ、それでもいいかと思ったんだけど」
以上は師匠の見方だ。
「ははは、いやまあ確かに、そういうところはあったと思いますね(笑)。受けるならある程度、偏差値の高いところに行きたいというところはあったんですけど」