「難しいことはしていないんです。まず初日に感じたのは、『このお店、汚くない?』でした。納品された段ボールが置いたまま、試着室のカーテンは薄汚れた感じ。とにかくお店をきれいにするところから始めたんです」
何より「買う立場」の目線だった。自分だったら、どういう店で買いたいか。就職したことがなかったからこそ、常識にとらわれず、当たり前の発想ができた。他にも仕入れ、ディスプレー、接客など、自分が「こうしたほうが」と思ったことを取り入れると着実に成果が上がった。
さらに、店の若い女性スタッフたちとの交流から、大きな気づきを得る。
「初めて会ったときには、驚きました。髪の毛は白に紫にドレッド。ネイルは奇抜。私の身近には、それまでいなかったタイプでしたから」
スタッフとは毎月1度はみんなで食事をし、プリクラを撮った。いろんな話をすると、年齢だけでなく、経験や認識に大きなギャップがあることを知った。世の中を固定的に見てはいけない、と思った。同時に、世界が大きく広がった。
「しかも派手な見た目に反して、中身は至極真っ当な子ばかりだったんです。仕事はきちんと責任を持ってやる。遅刻もしない」
セール時期には、朝が早めの集合になる。着くと、お店の床に寝ている子がいた。帰って寝ると起きられないから、とお店に泊まったのだという。
「ここまでやるって、すごくないですか。本当に偉いな、と思って。こういう子ばかりでした。今も、彼女たちとは定期的に顔を合わせています」