撮影:柳岡正澄

病院で出会った同級生

「総合病院の中って、もろに生老病死の世界なんです。一番上の階は子どもが生まれる産婦人科で、地下は霊安室。その間に外科や内科、精神科がある。そこでは、いろいろありますわ」

リハビリセンターでは中学校と高校の同級生と出会った。脳の病で、1人は言葉を発せなかった。

「結局、2人とも亡くなりました」

リハビリが始まってしばらくすると、柳岡さんは妻に頼んで小さなデジタルカメラを持ってきてもらった。

「写真を撮る者として、ものすごい、ムラムラっときたんですよ。それで、カメラを歩行器の前に置いて撮影を始めた。そしたら、病院の中を勝手に撮らないでくださいと、婦長さんに怒られた」

しかし、柳岡さんは諦めなかった。撮影を認めてもらおうと、交渉した。

「知り合いなら撮ってもいいですか、と聞いたら、知り合いだったらいいですって言う。それで、いろいろ写した」

さらに、コントラストを極端に高めて写せる機能を使って撮影すると、個人を特定できなくなった。

「これならOKですか、って、婦長さんに念押ししたら、いいですけど、あまりカメラを持ってウロウロしないでくださいね、って言われた。でも、結構撮りましたね」

撮影:柳岡正澄

話し相手も亡くなった

撮影では逆光を多用した。明るい窓際や照明にレンズを向けることで、病室でたたずむ男性や、談話室で時間をつぶす患者の姿がシルエットになって写っている。

リハビリセンターや談話室ではよく話をした。

「みんな退屈やからね。ウロウロ出てくるんですよ。糖尿病の患者さんから『あんパン買うてきてくれ』とか、頼まれるんですよ。で、『自分で買うてこい』って、言うて。その方も亡くなりました」

コルセットで固定した体や、つえを装着した腕をアップで写した患者の写真もある。

特に印象に深いのは首もとにチューブが見える写真で、顔の表情はわからないが、口紅を塗った唇が生きている証のように感じられた。

「この女性はがんでガリガリだったんです。兄貴が同級生やから話が弾んで、見舞いというか、よう話に行きました。撮ってもええか、って言うたら、顔は撮るなって、怒られましたけど。この人も亡くなられました」

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交通事故でトラウマに