日本睡眠学会と、2023年に新設の日本睡眠協会、両方の理事長を務める久留米大学学長の内村直尚医師も「昼寝は仕方次第で、認知症の予防にもリスクにもなる」と指摘します。

「60歳以上では、1時間以上昼寝をする人は認知症のリスクが2~3倍に高まってしまいます。一方で、午後3時までの30分以内の昼寝は認知症リスクを低下させるという研究報告があります」(内村医師)

 夜の睡眠についても、最適な時間の目安はあるのでしょうか。

「個人差はありますが、昼寝時間を含めて毎日5時間以上7時間未満の睡眠が、認知症予防や健康維持、長寿にもつながります。一方で、5時間未満または7時間以上の睡眠は認知症のリスクを高めてしまいます。認知症の原因物質とされるアミロイドβは睡眠中に排出されるため、適切な睡眠をとらないと、この物質が脳内に蓄積し、認知症のリスクが高まるためです。睡眠不足によって、糖尿病や高血圧などの生活習慣病リスクも高まります」(同)

 前述のように安達医師からは、眠くないのに布団に入り「床上時間」を長く過ごすことによる「睡眠の質」の低下について指摘がありました。内村医師はさらに、床上時間と寿命の関係について言及します。

「床上時間が8時間以上の場合に死亡率が増加するという報告もあります。眠れないのにだらだらと布団の中にいると、むしろ寿命を縮めてしまいかねません。よく眠れなかったという日でもいつもと同じ時間に起きて、布団の中には8時間以上いないことが大切です」(同)

 昼寝時間を含めて毎日5時間以上7時間未満の適正な睡眠時間をとっていても、「昼間に眠くなる」「寝た気がしない」などの症状が続くような場合は、なんらかの要因で睡眠の質が大きく低下している可能性があります。とくに高齢になると増えるのが、「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」です。睡眠中にいびきや無呼吸、呼吸の乱れが生じるSASは睡眠の質を大きく低下させます。

「加齢による筋力の低下で、寝ている間に舌根がのどに落ち込みやすくなります。舌が空気の通り道を狭くしたりふさいだりするので、SASを発症しやすい。SASによって夜間の酸素不足が生じると、日中の疲れや活動性の低下を引き起こしやすくなります。活動量の低下は睡眠の質を下げるため、悪循環に。重症化すると、精神状態にも悪影響を及ぼします」(安達医師)

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