肝がんは、「ウイルスやお酒を飲む人の病気」と思っていませんか? それは大きな誤解です。実は近年、お酒を飲まない人に起こる肝炎である、「非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)」による肝がんが増えています。肝がんになりやすい人や早期発見の方法、治療の進歩などについて、解説します。
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本記事は、2024年2月下旬に発売予定の『手術数でわかる いい病院2024』で取材した医師の協力のもと作成し、先行してお届けします。
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肝がんには肝臓の主な細胞である肝細胞ががん化した肝細胞がんと、肝臓の中を通る胆管ががん化した「肝内胆管がん(胆管細胞がん)」があります。日本で発生する肝がんの90%以上は肝細胞がんであることから、肝がんといえば「肝細胞がん」をさします。このため、同記事では肝細胞がんについて解説します。
肝がんは男性に多く、女性の2倍です。厚生労働省と国立がん研究センターにより2022年5月に公表された「2019年の全国がん登録」によると、2019年の肝がん罹患者数は3万7296人(男性2万5339人、女性1万1957人)で、男性では全がん中5位、女性では11位(数が少ないため、その他のがんとして集計)でした。年齢は50代から増加し始め、最も多いのは80~90代です。
肝臓は「沈黙の臓器」 進行するまで無症状
岩手医科大学病院消化器内科特任教授の黒田英克医師は、肝がんの特徴について次のように話します。
「肝がんは再発率が約70%と高く、再発を繰り返しやすい。ただし、『肝臓は沈黙の臓器』と言われるように、病気がかなり進んでもほとんど症状があらわれません」(黒田医師)
肝がんの多くは、慢性肝炎や肝硬変など炎症が起こっている肝臓に発症します。東京大学病院肝胆膵外科教授の長谷川潔医師は次のように話します。
「もとの病気である肝硬変などで、むくみや腹水、黄疸(おうだん)が出て、検査をしたら肝がんが見つかるケースがあります。肝がんは急速に増大すると肝臓内で破裂して(肝臓破裂)、大量出血を起こすことがありますが、非常にまれです。また、肝炎や肝硬変も、進行するまでほとんど無症状であることを知っておいてください」(長谷川医師)
肝がんの一番のリスクである慢性肝炎、肝硬変とはどのように起こるのでしょうか。慢性肝炎は肝臓の細胞(肝細胞)に炎症が持続的に起こり、徐々に肝臓が破壊されていく病気です。肝細胞が壊れた後に線維が沈着すると、肝臓が硬くなる「肝線維化」が起こります。これが肝硬変です。放置すると肝臓が働かなくなります。