地震と津波、両方の被害を受けた宝立町春日野地区
この記事の写真をすべて見る

 1月1日午後4時10分ごろ発生した、石川県能登地方を震源とする地震は最大震度7を観測。国土交通省は3日、津波に襲われた同県珠洲市と能登町で約100ヘクタールの浸水を確認したことを明らかにした。

 地震発生後、能登には大津波警報が、山形県、新潟県上中下越・佐渡、富山県、石川県加賀、福井県、兵庫県北部には津波警報が発表され、気象庁は高台へ避難するよう呼びかけた。だが、避難に苦慮するケースもあった。

「何度伝えても『前も大丈夫だった』の一点張りで、本当に困りました」

 富山県に住む女性は警報が出てすぐ、両親に避難するよう促した。だが、両親からは「行く場所がない」「死ぬときはこの家と一緒に死ぬ」と取り合ってもらえなかったという。

 幸い津波の被害はなかった。だが、次に同じことが起きたときのことを想像しては、不安になる日々が続いている。

 避難を拒むのは、この女性の両親だけではない。家族や親戚から避難行動を否定されたケースはいくつもある。防災心理学が専門で九州大学准教授の杉山高志さんは、背景に「経験バイアス」があると指摘する。

「過去の大丈夫だった経験が蓄積された結果、避難への腰が重くなってしまうのです。ただ、この数十年間で地震や津波、土砂や豪雨災害は信じられない規模で発生しています。『これまでの前例は通用しないんだ』ということを伝えていくことが重要です」

 一方で、外的な環境へのハードルから避難を拒む人も多いという。

「高齢の方や障害のある方々など要配慮者のなかには、『自分が避難したときに周りに迷惑をかけるんじゃないか』『避難場所までたどり着けるのだろうか』と感じている方も多いのです」

 そのハードルを下げるアプローチの一つが、要配慮者が参加しやすい防災訓練を取り入れることだ。南海トラフ地震の発生時に最大34メートルの津波が想定されている高知県黒潮町では、避難所が高い場所に位置している。そのため、要配慮者のなかには最初から避難を諦めている人もいるという。

次のページ
避難を嫌がる親にかけたい「一言」