東浩紀/批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役

 批評家の東浩紀さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。

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 2023年が暮れる。個人的には印象が曖昧(あいまい)な年だった。

 むろん大事件はあった。最たるものはイスラエルのガザ侵攻だ。現在も継続中の悲劇だ。国内も裏金問題で揺れている。与党派閥に次々強制捜査が入る前代未聞の事件だ。

 にもかかわらず焦点が合わないのは、いずれも前年から連続した事件だからだ。イスラエル紛争はウクライナ戦争なしにはなかっただろうし、裏金問題も安倍元首相銃撃事件の余波と言える。生成AIのブームも22年に始まっていた。コロナ禍は終わったが、世界はいまだ新時代の手前で足踏みしているように思われる。

 とはいえ来たる24年はそうはいくまい。まずは秋に向けて米大統領選がある。焦点はトランプ前大統領の復帰だろう。無数の不祥事を抱え、連邦議会議事堂襲撃を扇動した疑惑もある。にもかかわらずなぜか圧倒的な人気を誇る。復帰が実現すれば民主主義の意味が改めて問われざるをえない。ウクライナや中東の情勢にも直に影響する。

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東浩紀

東浩紀

東浩紀(あずま・ひろき)/1971年、東京都生まれ。批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役。東京大学大学院博士課程修了。専門は現代思想、表象文化論、情報社会論。93年に批評家としてデビュー、東京工業大学特任教授、早稲田大学教授など歴任のうえ現職。著書に『動物化するポストモダン』『一般意志2・0』『観光客の哲学』など多数

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