撮影:北山輝泰

北山輝泰さんの作品に写る小さな丸いドーム屋根。福島県南部の鮫川村、標高700メートルの丘にある鹿角平(かのつのだいら)天文台だ。その上には満天の星空が広がり、冬の代表的な星座、オリオン座が見える。かすかな星の輝きが連なる天の川も写っている。

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「鮫川村の夜はちょっと怖いくらい暗いので、夏の天の川に比べて淡い冬の天の川もよく写ります」と、北山さんは言う。

東京・新宿で生まれ育った北山さんは2008年、この場所で初めて星空を見上げたときの衝撃を今も鮮明に覚えている。

「すごく感動したというか、もう理解できなかったですね。いったい、この星の数はなんなんだ、と思いました」

撮影:北山輝泰

天体写真への違和感

当時、日本大学芸術学部で写真を学んでいた北山さんは恩師の原正人さんともにたびたび鮫川村を訪れた。

きっかけは大学4年生のとき、「サイエンスフォト」のゼミで月面を写したことだった。その手ほどきをしてくれたのが原先生だった。

「それまで天体望遠鏡にカメラが取り付けられるなんて、知らなかったし、月のクレーターを撮影したのも初めてだった。これは結構面白いな、と思いました」

熱烈な天文愛好家だった原先生は鮫川村の隣、棚倉村の出身で、天体観測に最適な鹿角平に天文台を建てようと尽力した一人だった。

授業で天体撮影に興味を持った北山さんは原先生から口径8センチの天体望遠鏡を譲り受け、オリオン大星雲やすばるなどの撮影にのめり込んだ。

ところが、1年ほどで熱は冷めてしまう。「どこで撮っても写る絵は基本的に同じだから、飽きてしまった」。天体写真のあり方に違和感を覚えたことも理由だった。

特に星雲や星団の写真の場合、他の人の作品と差が出るポイントはパソコンで写真を仕上げる際の画像処理だという。

「それにはいいパソコンやソフトウエアが必要で、貧乏学生には無理でしたね。それに、パソコンをうまく使える人が勝つ、みたいな感じがして面白くなかった。これは自分がやりたいものとは違うな、と思った」

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草刈りをしながら星を撮影