草刈りをしながら星を撮影
北山さんが撮りたかったのは星空のある風景写真、「星景写真」だった。もともと自然風景を撮るのが好きで、大学時代は海や山に足を運んだ。
そんな北山さんは09年、大学卒業と同時に「緑のふるさと協力隊」の一員として鮫川村に移住。1年間の任期で、自然豊かな村の魅力を県外に発信した。
「例えば春、桜の名所をまわって、写真を撮り、開花状況を伝えました。でも、メインの仕事は草刈りとか、村のおじいちゃんやおばあちゃんのお手伝いでしたね」
夜になると、天文インストラクターとして観光客に天文台の望遠鏡を使って星々を紹介した。
「お客さんがいないときは、星空を撮影しました。あわよくば、作品をたくさん撮影して、世の中に発表していこう、みたいなことを考えていました」
副業が本業を越えて独立
鮫川村での任期が終わると、望遠鏡メーカーのビクセン(埼玉県所沢市)に転職。営業マンとして北海道から沖縄県まで全国の得意先を訪ねた。
「ビクセンに勤めながら星景写真を撮り続けました。結構、出張したときにも撮影しました。もちろん、業務時間外に、仕事のノルマを達成した上でです」
ビクセンに在籍した7年間の後半は星景写真家としてカメラメーカー主催のセミナーで講師を務めるまでになった。
やがて副業はビクセンの仕事と両立できないほど増え、17年、星景写真家として独立した。
星空を手持ちで撮影
北山さんの作品の特徴の一つは、積極的に手持ち撮影に挑戦し、情感あふれる星空のある風景を写してきたことだ。
作品には、ゆるやかな起伏の草原で星空を見上げる女性の姿が写っている。その向こうには東シナ海が見える。長崎県・五島列島、福江島の絶景ポイント、鬼岳で撮影したものだという。
「この場所を訪れた人が星空を見上げる風景は一瞬、一瞬で変わっていきます。手持ち撮影のフットワークでシャッターを切らないと間に合いません」
長野県・志賀高原で写した作品には画面奥に伸びる木道の上に夏の銀河が広がっている。こちらは極端に低い位置から撮影したため、三脚を使えず、手持ちで写したという。露出時間は10秒。これほど長い時間、カメラを構えてもブレずに撮れるとは驚きだ。
「最近のカメラの手ブレ補正機能は本当にすごいですよ」