亡くなる1カ月前に東京で幸美さんと食事をしたときのまつりさん。ケーキには「お母さん、いつまでも元気で」のメッセージが入っている

 広告大手・電通の新入社員だった高橋まつりさん(当時24)が、長時間労働やパワハラを苦に自ら命を絶ってから12月25日で8年になる。

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「今年になって、宝塚歌劇団でのパワハラや異常な労働環境が明らかになりました。劇団員の方もまつりと同様に、命を絶ってしまった。電通と宝塚、似たところがたくさんあって、ますます悲しみが募るクリスマスです」

 こう話すのは、まつりさんの母幸美さん(60)。

 今もまつりさんが愛用していたベッドで毎日寝ているという幸美さんは、まつりさんの遺影を前に、スマートフォンで毎日のように宝塚歌劇団関連のニュースをチェックしていたという。

電通の鬼十則、宝塚の手帳、そっくり

 まつりさんが就職した当時、電通には企業体質を如実に表した「鬼十則」という「行動規範」がまかり通っていた。

<仕事は自ら創るべきで、与えられるべきでない>

<取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは……>

 など、ひたすら仕事に没頭せよという、会社一辺倒で、現代社会には合致しない内容が盛り込まれていた。

 宝塚歌劇団でも、亡くなった劇団員の遺族代理人である川人博弁護士は、記者会見で歌劇団の生徒手帳を広げて、

<上級生、下級生とは縦の絆、同期生とは横の絆>

 などと厳しい上下関係が記されている内容について、厳しく批判をした。

 幸美さんは言う。

「電通の鬼十則、宝塚の手帳、そっくりなのですよ。電通は就職するのがかなり大変な難関企業です。けれど入社できれば電通マンとしてすごいプライドにつながる。宝塚も、過酷で厳しい試験を受けて難関を突破して入る。それがタカラジェンヌとしてのプライドになる。その反面、中に入ると、他の世界が見えなくなる。宝塚がすべてになって、睡眠時間が3時間しかなく、パワハラを受けながらも練習するしかない。まつりちゃんも寝る時間すらないのに上司から過剰な仕事を押し付けられ、ひどいパワハラや労働環境でもおかしいとは思えない精神状態に追い込まれた。つながっていると思う」

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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