実はこの年の有馬記念でオグリキャップは5着に敗れてしまうのだが、翌90年は精彩を欠くレースが続く中でファン投票1位(票数は前年より少ない14万6738票)で有馬記念に臨み、武豊騎手を背に伝説的な復活劇を見せたのだった。
話を最多得票に戻すと、89年のオグリキャップを超える馬は2020年のクロノジェネシスまで現れなかった。1994年に久々の三冠馬となったナリタブライアンも、2005年の無敗の三冠馬ディープインパクト(16万297票)も、史上最強牝馬の呼び声も高い19年の三冠牝馬アーモンドアイ(10万9885票)もオグリ超えは果たせなかった。しかもオグリの時代にはなかったインターネット投票や各種キャンペーンによる豪華賞品プレゼントが導入されたにも関わらずだ。
ところが2020年にその状況が一変した。この年のファン投票1位に輝いたのは前述のとおりクロノジェネシス。同年の宝塚記念を制した実力馬だが、この時点でのG1勝ちは前年の秋華賞を含めて2勝のみ。前年1位のアーモンドアイがG1を当時6勝していたことを思えば実績では見劣りしていたことが否めないが、得票数は21万4742票とアーモンドアイの約2倍だった。ファン投票の総数自体も19年の約158万票に対して20年は約263万票と100万票以上も増えていた。
この要因には、20年から本格化した新型コロナウイルスの感染拡大の影響があったことは間違いないだろう。多くの生活娯楽関連サービスが甚大な打撃を受け、特に映画館や遊園地、スポーツなどの各種娯楽イベントは自粛要請で苦境下に置かれた。だが娯楽業の中でも競輪・競馬等は例外的にコロナ以前の水準を超えるほどの好調だったことが、経済産業省の出した「第3次産業活動指数と娯楽業の内訳6分類の動向」で示されている。
コロナ禍が本格する直前の2019年末時点で120半ばだった「競輪・競馬等の競走場、競技団」の活動指数は20年3月に100を切るまで落ち込んだものの、7月時点では150超えとV字回復を見せた。一方、第3次産業総合の指標は19年末の100超えから20年春に80台まで落ち込み、夏以降はやや盛り返したものの100に届くことなく20年末を迎えている。この結果からは、各種娯楽がステイホーム推奨による制限を受ける中で、競輪や競馬はコロナ以前からインターネット投票が整備されていたこともあって場所や時間の制約を超えられたことが大きかったのが見て取れる。